情報コード  DYP1
情報登録日  2019/03/15
情報作成者  河井正治

.野球のインテリジェンス 


1.ピッチングの科学 その1  

・・・・投球速度は5つの並行動作の合計で!・・・・                

1.投球動作を調べる。
 野球のピッチングは、投球動作開始から投げ終わりまで約0.3秒間で行われるのが一般的である。

                図1.ピッチングの連続画像

                    
 図1は、B高校C君の投球動作の連続図映像である。ビデオの映像を1コマずつ取り出したものである。撮影コマの関係で、残念ながらボールのリリース瞬間が写っていない。便宜上、投げ終わり状態のフォロースルーにあたるコマを0.0秒として、その0.3秒前からの連続映像である。紙面の関係で0.3秒前、0.2秒前までは0.1秒間隔で表示した。その後は0.0333感覚である。この投球動作の映像で解析を行った。判明した状況をC君に伝え、自身で動作の改良に取り組んでもらった。数週間ごとに状況を計測し、次の課題を見つけるという方法で強化に取り組んだ。

2.スティック図を作る。
 動作の解析は身体の動作による変位を明確にするため、各部の関節を結んだスティック図を作る。身体動作の状況が一目でわかり、寸法などの測定が正確にできるからである。
 図2は、実際の高校野球の選手のピッチング動作の連続写真から、解析用にスティック図を作る様子を示したものである

       図2.画像からスティック図を作る。            図3.身長が長さ基準

 分かりやすいように腕と手は青線、両肩を結んだ線はピンク線、右足と胴体・首を結んだ線は黒線、左足は赤線で示した。スティック図は、動作解析には必需のものである。
 寸法の確定は、図3のように、選手の映像の身長で行う。直立でなくとも身長がわかる映像を使う。赤矢印線の長さがC君の身長178cmに相当することになる。

3.投球動作の分析
 図4は、ピッチャーC君のビデオ映像のコマ送りから作成したスティック図で、リリース直前とその前後のコマである。この図をみると選手の一連の動作の状況が写真より良くわかると思う。動作の解析はスティック図で行う。

               図4.ピッチャーの投球フォーム

 投球動作をよく考えてみよう。図5のように、ボールを前に投げるということは手で前にボールを移動させて(押して)放り出す(リリース)ということである。つまり、投球動作とは静止しているボールを油断するとバッターが空振りしてしまうほどの高速度に加速して放り出すという動作である。
 図6に示したように、白球リリース時の前後のコマのスティック図を重ねてみるとボールが手によって運ばれる状況がよくわかる。ボールは手を離れるともう加速は行われないので、投球速度はリリース瞬間の手先の移動速度で決まるということになる。

       図5.投げることは前に押すこと 図6.リリース直前のボールの運び

 図6を注意深くみると、4つのボール加速に影響する手先の前への移動が読みとれる。
 まず図7のように、首と胴体を結ぶ黒線の首の部分が、右足の踏み込みで勢いよく前への移動している。首部が一番進んでいる。
 2つ目は図9のように、ピンク線の首に支えられている肩部は、投げる前の姿勢で後方へひかれていた右肩が投球動作によって前へせり出して(ローテーションして)移動している。 
 さらに、その右肩に乗っている青線の手(上腕と腕)が投げる動作によってボールを前へと進めている。図9のように手の動作では、上腕が前に旋回して肘が勢いよく前に出ている。
 4つ目は、図10のように、腕の旋回によって手先が急速度を得て前へボールを運んでいる。首・右肩・手の動作が並行して行われている。
     

  図7.踏込み移動    図8.肩ローテ     図9.肘の移動      図10.腕の旋回

 このようにリリース瞬間に得られた速度というのは、投球動作による並行して行われる身体の各部の動作による前への進行加速の合計で決まっているのである。

4.並行動作の加速分の計測
 投球時の並行各動作の加速分を量的にについて考えてみる。

1)、右ピッチャーの左足踏み込み動作による胴体の前進分
 図7は、右ピッチャーの右足踏み込み動作による胴体の前進分はリリース直前の画像とその1コマ前の画像を重ねて表示したものである。右足は移動がないので足先を合わせる。
 図9のように、人間の身体は手の投球動作を支える両肩の中心部が首元になっているので、首の移動距離を胴体の前進分として計測する。C君の移動量は33.2cmであった。これが1コマ間の所要時間(0.0333秒)の動作なので、移動速度は35.8km/時となった。

2)右肩が投球動作により前へせり出し(ローテーション)による加速分
 図10は、投球前に後方へひかれていた右肩が投球動作により前へせり出して行く状況(ローテーション)で、同じくリリース直前と1コマ前を重ねて計測する。見える肩の移動距離は42.2cmであったので、肩の移動速度は45.6km/時であった。肩部は首に乗っているので、首(胴体)の移動速度を差し引いたものが肩ローテーションの加速分になる。C君の計測値は9.8km/時であった。

3)腕の回転による加速分
 図11の右列が腕の旋回角の計測法である。リリース直前のコマと1つ前のコマのスティック図の腕と上腕のなす角度をそれぞれ計測する。C君の場合、リリース直前のコマでは33°、その前のコマでは111°であった。すなわち、この1コマ間に111°であった腕と上腕とのなす角が78°変わったことになる。これが腕の旋回角となる。

            図11.腕旋回角計測  図12.旋回角から移動速度の計算

 図12のように、旋回角から、肘から手のひら中央までの長さを半径Rとして持ったボールの移動距離が算出される。上腕旋回の場合は、肩から肘までの寸法が半径Rとして移動距離は円周に沿って、2πR×θ/360° となる。
 ピッチャーC君は身長178cm、肘から手のひら中央までは39cmであった。彼の腕旋回角は78°なので 2×3.14×39cm×78°/360°= 53.1cmとなった。持ったボールが0.033秒間に移動させられることになるので、速度は57.3km/時となる。
これが腕旋回による加速分となる。

2-4.4月時点の高校生ピッチャーのデータ
 A県のB高校の4月から6月までの甲子園強化の練習データを参考にしてみる。3年生ピッチャーC君は身長178cm、肩から肘の寸法は約40cm、肘から手のひらまでは39cmであった。4月の訓練開始時は、球速の平均が125km/時のひ弱なピッチャーだったが、3ヶ月後にはチャンピオンデータで139km/時になった。仕組みがわかって訓練すると短期間で成長するものだと感心した。

         表1.計測データ(4月時点)


    
 表1は彼の各動作による加速状況の計測値である。このデータを分析してみよう。
このデータは、彼の平均投球速度125km/時であったので、加速分合計が122.9km/時はスピードガン計測値の125km/時に対し多少誤差があるが納得がいく数値である。
 この表から見える動作による加速分の割合が極めて興味深い。
1)足踏み出しによる胴体移動分の加速は、全体の29%も占めていた。たった1歩の踏み出し動作で、球速
  の29%にもなる加速をしていたのである。陸上競技の男子100競走では世界記録が9秒そそこで
  ある。仮に100mが日本記録に近い10秒0とすると、時速は36km/時になる。彼の踏み出し速度と
  ほぼ同等である。
  そういえばバレーボールのサーブやバックアタックは後ろから走ってきて打つので、その分が加えられて
  普通のサーブやアタックよりもボールが速く、相手を翻弄するので実戦でよく使われる。身体移動で加
  分を増やし、打球速を高めていたのである。インテリジェンスを活用した攻撃で納得する。 
2)肩のローテーションの影響は少ない。後に解説するが可動域の制限のためである。
3)腕を振り回しての投球で、上腕部の旋回による肘の全身の影響は、15%位であった。
  大きな上腕部の筋力を最大限使える動作なので加速分も多いと思われるが、これも可動域の制限があって
  15%程度になってしまう。
4)47.1%も占めているのが肘の旋回によるものである。実際にピッチングにおける肘
  の旋回は最も重要な技術である。後に詳しく解説する。
5)彼は手首スナップをまったく利かせていない投球であった。もったいなかった。

5.その2に続く
 実はこの4つの並行動作に加えて、5)として「スナップを効かせた投球」という動作が挙げられる。
 このデータを元にC君は科学的挑戦を行った。その2ではその挑戦を解説する。平均球速125km/時のひ弱な高校生選手が、140km/時弱の球を投げられるように成長したこの記録は、160km/時を超える世界のトップピッチャーの参考にはならないと思う方々も多いと思うが、投球技術の本質を突いたこのアプローチは見逃せないものと考える

                                                      

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