情報コード  DTC2
情報登録日  2019/11/17
情報作成者  河井正治

4.テニス 3.市民選手のテニス その2

   「動的反射能力」活用



8.「動的反射能力」活用型守備とは
 このようにテニスの守備では、相手打球速に対する守備カバー率が極めて重要である。「市民選手その1」に表記した表1②の実業団・大学・女子トップ選手レベル、③の一般市民選手・熟年選手についてのデータをみると、相手打球が早くなるとカバー率が下がり、頑張っても打球に届かない範囲が大きくなっている。打球速の速い相手にはどうしようもないということになる。「サーブ守備その2その3」で解説した「動的反射能力」活用型守備を市民選手でもトライしてみることが大きな効果を上げることがわかっている。
「動的反射能力」活用型守備とは、静止構えスタイルで相手選手のサーブ打撃を待つのではなく、事前に打者の打撃瞬間を予測して動作を開始し、前へ移動しながら打撃瞬間を目視して打球方向を認識、球追い移動を方向転換で対応するという方法であると前述した。
 
9.「動的反射能力」
 静止からの「急発的動作開始」では「市民選手その1」の図1で示したように、隠れ反動時間と自分の身体を移動速度までに加速することは慣性モーメントの関係で大きなエネルギーを要する。そのため訓練された選手でも約0.3秒の時間、市民選手では0.4を要すると解説した。
 図4は、「サーブ守備その2」で解説した走行の場合の静止スタートと方向転換との違いを説明したものである。上段の図の静止からのスタート時は、号砲を耳で聞いて0.1秒後にスタートを脳が認識し、瞬時に判断動作開始指示が出される。身体はその0.1秒後に指示を受けて動作が開始される。すぐ走行状態を開始しようとするが、訓練された選手でも静止状態から隠れ反動時間と加速時間のために走行状態に移行するのにさらに0.3秒を要することになる。号砲からから走行開始の指示を受けた後に合計で0.5秒かかることになる。
 図の下段の方向転換の場合は、すでに走行状態になっているので、脳が耳や目でのスタート号砲(打撃瞬間)を受けてからの指示による方向転換動作開始は静止開始と同様に0.2秒後に行われる。しかしそのときはもう移動速度は確保されているので隠れ反動や加速区間はなく、0.1秒後の方向転換が行われた時点にはもう普通の走行が行われている。走りが継続されて方向が変わっている状態であると考えればいい。号砲からの所要時間は、静止構え状態よりも0.2秒も速く実行できるのである。


             図4.走行スタートと方向転換方向転換

 サバンナでの動物活動状況を伝えるテレビ放送などで、ライオンやチータ等の肉食獣の狩りで獲物のガゼルなどを全力で追っている映像を思い出して欲しい。必死に走って逃げるガゼルが一瞬右に左に方向転換して追跡をかわしている状況を覚えているだろうか。これが瞬時の方向転換である。同じ動作の継続という状況なので、左右に向きを変えているだけとなり0.1秒で方向転換ができて逃げる速度は変わらない。追いかけている肉食獣は、相手の方向転換を目視してからの方向転換なので0.3秒を要してしまう。この0.3秒は大きい。なんとか逃げきれることになる。これがひ弱なガゼルにとって命に関わる重大な能力なのである。地球上で長いあいだ弱肉強食の野生で暮らしてきた動物に生きるために神が与えてくれた能力なのである。これはもちろん人間にも備えられている。我々はこれを「動的反射能力」と呼ぶことにした。ただし180°反対方向の場合のように大きな方向転換では、一度速度がゼロ近くなるので図7の上段の静止構えに近い同じ状態となる。そういった意味では方向転換方向の角度の大きさによって短くなる時間が異なることになるが、90°以内程度の方向転換では経験的に所要時間がさほど大きくはならないようである。

10.「動的反射能力」
 「動的反射能力」活用型守備とは、静止構えスタイルで相手選手のサーブ打撃を待つのではなく、事前に打者の打撃瞬間を予測して動作を開始し、前へ移動しながら打撃を目視して打球方向を認識、移動の方向転換で対応するという方法である。

              図5.サーブ受けの一連動作の時間経過

 図5は、サーブ受けの一連動作に時間経過がどうなるかを示したものである。「市民選手その1」の図2の下段に記載した一般市民選手の動作状況を上段に再表示した。下段は「動的反射能力」活用型の場合である。上段のように相手打撃瞬間を構え姿勢で目視して①、球追い動作の移動開始まで市民選手では0.6秒かかるとした。それから打球が来るまでを余裕時間とした。この余裕時間内に球追いで移動できる距離と手伸ばし範囲との合計で守備可能範囲とした。下段に示す「動的反射能力」活用型守備では若干様相が違う。静止構えをする本来の位置よりさがって構えをし、相手選手が打撃する直前に動作を開始して移動はじめる。途中相手打撃瞬間を目視し、球の方向を判断そちらへ方向転換する。方向転換の動作は、脳と筋肉の関係で打撃目視してから0.2秒後に開始され0.1秒で行われる簡単な動作である(目視してから0.3秒後には方向転換完了)。球追い動作の開始されるこの時点ではあらかじめ移動しているのでもう球追い動作速度は確保されている。つまり、相手打撃から0.3秒後には打球の来る方向に移動ができるのである。静止構え型から0.3秒も早くなるのである。しかし、相手打撃による打球の方向は目視してわかるので姿勢確保(フォアハンド側・バックハンド側など)の動作開始は、打撃瞬間の0,2秒後になる。姿勢確保動作は0.3秒かかるので打撃開始からどうしても0.5秒は必要となる。この前に球の来る位置へ到達していても姿勢が確保されていないのでこの時相手打球が来てしまえば適正な打ち返し動作を十分にはできない。そこで、捕球姿勢確保されてから球の来るまでの時間が真の余裕時間となる。つまり、「動的反射能力」活用型守備では「球への到達可能範囲」と「打ち返し可能範囲」という概念が生じる。「球への到達可能範囲」はなんとか相手打球に追いつける守備範囲(移動可能範囲)のことで、図5に下段よると相手打撃瞬間の0.3秒後から球が到達するまでに守備選手が移動できる範囲である。球には追いつけるがちゃんと打ち返せるかは保証できない。「打ち返し可能範囲」とは、捕球姿勢が確保された後(相手打撃瞬間から0.4秒後)から球が来るまでに移動できる範囲である。ここでは相手打球の速い球でも自在に打ち返せる。真の守備可能範囲である。
 結局、静止構え型では、相手打撃から0.6秒後に球追いが開始され余裕時間になるのだが、「動的反射能力」活用型では0.5秒後からが余裕時間ということになる。つまり余裕時間が0.1秒短縮されことになる。たった0.1秒でもこの差は大きい。打球速で換算すると、100km/時の場合3mの距離、200km/時の場合5.5mとなる。
 守備可能範囲のシミュレーションをしてみると大きな差があることがわかる。

11.「動的反射能力」活用型守備での計算シミュレーション
 「動的反射能力」活用型守備での状況のシミュレーションで、余裕時間の0,1秒がどう影響するかを調べてみる。表2は、計算シミュレーションによる静止構え方と「動的反射能力」活用型での守備範囲の比較である。数値枠の下地の色の白が静止構え方守備、青地が「動的反射能力」活用型の守備範囲の計算値である。カバー率の項で100%の場合は下地色はそのままだが100%を切った場合、静止構え型ではオレンジ色に、「動的反射能力」活用型では濃い青下地に表示した。
 表2の②は表1と同様に実業団・大学・女子トップ選手レベルを想定し、選手の運動能力を「敏捷性」の反応時間0.55秒、「球追いでの移動速度」は6.4m/秒とした。この表で注目して欲しいのは右端のカバー率の項である。静止構え方の場合相手打球速が140km/時以上になるとカバー率が100%を切りサービスエイスを取られる確率が上がってきているのであったが、「動的反射能力」活用型では、170km/時までカバー率を100%している。180km/時でも99%となり、打ち返し対応がほぼ可能となっている。大きな効果が認められる。

      表2.静止構え方と「動的反射能力」活用型での守備範囲の比較


 表2③は表1と同様に一般市民選手・熟年選手について計算したものである。運動能力を「敏捷性」の反応時間を0.6秒、「球追い移動速度」を5m/秒として計算した。
 右端のカバー率の項に目をやると、やはりカバー率100%の部分が大幅に増えている。静止構え方では100km/時までだったのが130km/時まで対応できる計算である。140km/時でもカバー率が96%で、ほぼ全域カバーできることになっている。市民選手レベルの試合では打球速の速い選手にはお手上げであったが、これなら対応できる。大きな違いである。   

12.あらかじめの動作開始
 表2のシミュレーション結果をみてその効果の大きさがわかったと思う。「動的反射能力」活用は極めて重要なテクニックなのである。あらかじめ加速区間分だけ下がって動作を開始することを考えてみる。
 サーブ受け守備で、少しさがった位置から相手打撃瞬間より前にあらかじめ動作を開始しておき、本来の静止構えの位置に到達したときには移動速度に達していたら、相手打球に余裕を持って追いつくことができる。そうすれば思うところへ、思う強さで打ち返すことができるであろうと考えられる。そのため、あらかじめ約1m下がった位置(経験値)に構え、相手サーブ打撃前に球追い動作を開始する。図6は、その状況と時刻を示したスケッチ図である。

                図6.「動的反射能力」活用型守備

 図の右上の位置(約1m位うしろにさがって)で相手動作を見ながら構える。相手動作の打撃前のある瞬間を移動開始の目標にして、②その瞬間を目視する。その0・2秒後に身体が移動を始める。①その0.1秒後(②より0.3秒後になる)に相手打撃を目視すると、その時点で打球方向が認識でき、身体はもう球追い動作指示を受け手前の方へ移動を開始している。この時点では打ち返すべき球の位置が認識でるので、並行的に脳から方向転換(必要ない場合もある)と姿勢確保の命令が出る。④0.3秒後には方向転換がなされ、姿勢確保の動作が行われている。この時点ではすでにコートのエンドラインに到達(位置して)おり、球追い動作速度も確保されている。⑤その?秒後には相手打球の飛んでくる位置に到達しており、捕球姿勢もキチンと確保されている。余裕を持って打ち返せることになる。この手順で動作した場合のシミュレーションが表2の②③である。表2の③をみると、相手サーブ打球速が130㎞/時の場合球が来るのは0.76秒後である。相手打撃から0.6秒後にはエンドラインへ到達しており、姿勢が確保されているので、0.26秒の余裕を持って球に位置へ移動でききっちりと打ち返しができる。守備の穴がなくなるのである。もうサービスエイスを取られることはない。

13.どのタイミングで動作開始か?
 「動的反射能力」活用型守備とは、静止構えスタイルで相手選手のサーブ打撃を待つのではなく、事前に打者の打撃瞬間を予測して動作を開始し、前へ移動しながら打撃を目視して打球方向を認識、移動の方向転換で対応するという方法であると前述した。
 それを実施するには、あらかじめ相手選手のインパクトの瞬間を見越しての事前の動作開始という難しい局面が必要となる。相手選手の打撃の直前に行動を開始しなくてはならない。むずかしい技術であるかも知れない。それをどうやるか考えてみよう。
 テニスサーブにおいては、一度球を空中に放り上げて、落ちてきたところをオーバーハンドで力一杯打撃するのが一般的である。まず参考にトップ選手の映像を見てみよう。 図7は「サーブ守備その3」の再表示で、2012年ジャパンオープンで日本トップのN選手からサービスエイスを取った時のB選手の球放り上げで、球が最高点になった時の映像である。

             図7.サーブ打撃前の球放り上げ(トス)

 放り上げられた球は最高点が約5.1mであった。図8は、彼のサーブ打撃の球放り上げから打撃までの一連動作のスケッチ図である。左から球を放り上げて、相手コートに力一杯打ち込む動作がわかると思う。放り上げで最高点5.1mに達した球は、1m落下に0,45秒かかり、打撃点の高さ3.3mまでの落下に0.58秒ほどかかった。B選手の身長は185cmほどであり、この時打撃時に45cmほどジャンプした。最高点から打撃瞬間まで0.58秒ほどかかったことになる。

          図8.サーブ打撃の球放り上げから打撃までの一連動作

 市民選手の試合においてサーブ打撃のトス(球あげ)で5mまであげる人は少ないと思われる。多くの人がラケットの打撃高さまでかせいぜい4mくらいであろう。「動的反射能力」活用型守備では、相手打撃前に動き始めなくてはならない。図5や図6に示したように選手の運動の力から考えて相手打撃瞬間の0.3秒位前から移動を開始するのがいいようである。図8から考えて、4m高さまでトスする相手の場合では、守備選手の背の高さにもよるがラケット打撃点高さを3mとして、球が落下して打撃する瞬間は約0.4秒前後であろう。そうすると、さがった位置で静止構えをして、相手選手のトス動作で球が最高点から落ち始めら動作を開始するというのが理想的だと考えられる。実際では、トスの高さ、身長の差、打球速の違いなどであらかじめ動き出すタイミングは違うであろう。しかし、このように相手動作のある瞬間を目標にして、動作を事前に開始するのがいいと考える。このタイミングは訓練でしっかり脳に訓練ルートを作らなくてはならないことはいうまでもない。
 一連の動作を観察するとサーブを打つ側の選手はトスをするとラケット打撃をしっかり行うために放りあげた球を熟視している。ということは「サーブ打球の方向を球放り上げ(トス)動作開始直前で決めている」ということになる。トスを始めた後に守備選手が動いたと感じてもサーブ打球の方向転換はない。安心して「動的反射能力」活用型守備が行える。さらに「サーブ守備その3の方策例3」に記載した「相手のサーブ打撃コースを誘導する」という作戦も展開できることになる。詳細は「サーブ守備その3」を参照いただきたい。

14.終わりに
 テニスのサーブやスマッシュなどの速球の打ち返し守備は市民選手の試合においても「急発的動作開始」を強いられる。この状況での「動的反射能」活用は重大な技術である。
 しかしそれには、あらかじめ相手選手のインパクトの瞬間を見越しての事前の動作開始という難しい局面が必要となる。相手選手の打撃の直前に行動を開始しなくてはならない。むずかしい技術であるかも知れない。
 思い出すのは伊達公子選手である。当時の国際試合などのテレビ中継映像をみると、彼女は必ず相手サーブ打撃に瞬間に合わせてポンと跳ぶように動作を開始していた。彼女は、女子選手ということで多分表2の②あたりの運動能力であったと思う。当時「動的反射能力活用」という事を知っていたかは定かでないのであるが、知的に鋭い彼女は経験的に動作していたのであろうと考えている。
 「動的反射能」活用を現実的にするのが繰り返し練習による脳の訓練ルートの形成である。脳の訓練ルートの開発はスポーツ界では重要な訓練事項である。繰り返しということだけが重要視されて間違った訓練が行われている場合がよくある。脳の訓練ルート開発に関して、しっかり考えてみよう。