情報コード  DTC1
情報登録日  2019/11/11
情報作成者  河井正治

4.テニス 3.市民選手のテニス その1 

    基礎的知識


1、市民選手のテニス
 これまで世界と戦うトップ選手の動作を考えてきた。しかし、市民選手としてのテニス愛好者は多い。相手のミスでポイントを重ね勝敗を争うという球技スポーツとしての娯楽性、球を追ってコート内を走りまわる運動の持つ健康性、男女誰でもができるという容易性などテニスという秀れたスポーツ種目を愛好する人は多い。ここではその市民愛好者のテニスを考えてみたい。医学書ではないので健康問題ではなく、やはりテニスの動作テクニックを科学的に考えてみよう。

2.球受けの身体動作テクニック
 上手に攻撃して相手を惑わすことも重要だが、まず相手の撃った球を上手に返すテクニックから考えてみよう。
 トップ選手の攻撃打での豪速球は200㎞/時を越える場合が多々ある。この球受けは人間の限界に近い身体動作が必要となる。「サーブ守備その1、その2、その3」で解説した。しかし、一般的市民選手や熟年選手には人間の限界に近い身体動作を行うことは無理である。しかも、サーブ打球の速さがせいぜい100㎞/前後であろう。
 相手選手のサーブやスマッシュなどの球受けは、市民選手といっても「急発的動作開始」を強いられる。トップ選手との運動能力の違いを考えると、2つのポイントがある。「急発的守備動作開始」の際の「敏捷性」の違いと「球追い移動速度」の違いの2点である。

3.「敏捷性」の考察
 「敏捷性」とは、ある事態が生じたとき機敏に対応する能力のことをいうことが一般的である。「敏捷性」は人間個人の先天的な能力であるとも言われている。しかし、トップ選手のように身体能力の限界を追求するような場合は先天的な能力が重要であるかも知れないが、今までの経験では、テニスのサーブやスマッシュの打ち返しなどでの機敏な対応に求められる「敏捷性」は訓練や経験で得られたテクニックが極めて影響が大きいと考えられる。


                図1.急発的移動開始時の速度変位

 図1は、急発的移動開始時に身体の移動速度の上昇(加速)状況を示した模式図である。静止状態からの動作開始の場合を想定した図である。上段の図は訓練や経験が豊富なトップ選手の場合で、下段は一般的な市民選手などを想定した図である。一般的な市民選手は、時間的・その他の制限で身体の限界までの訓練ができないため、隠れ反動時間が多めになってしまう。球追いに必要な速度への加速時間も筋力不十分のため長めになってしまう。どのくらい長くなってしまうのかは、選手の体力や訓練状況等で大きく違うが図では後述の計算シミュレーションで用いるため0.4秒とした。今までトップ選手での守備ではこの時間を上段のように0.3秒として計算していた。そのため、相手打撃の瞬間から球追い動作が行われるまで0.5秒(守備その1参照)としていたが、今回の市民選手のシミュレーションでは0.6秒として計算する。

4.守備動作
 図2はサーブ受け守備動作の一連である。上段の図がトップレベルの選手、下段が守備選手のスケッチ図で、守備動作の流れのスケッチ図と時刻の関係を示した。


                  図2.守備動作

 守備選手は相手打撃を静止姿勢で構え、①相手の打撃瞬間を目視してから0.1秒後に脳が瞬時に状況を判断し対応動作の支持をする。脳と身体との関係で脳の指示により②身体が動き出す動作開始は今までの計測経験で0.2秒前後である。捕球姿勢確保動作と球追い移動動作とは並行して行われる。③捕球姿勢確保までの時間は実際の訓練状態で違っているものと考えられるが、トップ選手は0.2秒位(青で表示)である。市民選手は(中には素早く動作する市民選手もいるが)一般的にはやや緩慢な動作のため0.3秒(赤で表示)かかるとしよう。④移動速度確保までの時間図1で示したようにトップ選手と市民選手では違いが生じる。上段のトップ選手は動作が開始してから0.3秒後(青)に移動速度が確保され、本格的球追い動作が行われる。市民選手の場合、ここで0.1秒余分の0.4秒(赤)かかる。従って打撃瞬間から球追いが始まるまでの時間がトップ選手は0.5秒(青)であるが市民選手では0.6秒(赤)かかってしまう。この0.1秒は大きい。 
 本格的に球追い移動が開始されて相手打球がくるまでの時間が余裕時間となる。相手打球速はこちらの訓練状況とは関わりがない。当然速い打球の時は余裕がなくなる。余裕時間は相手打球速とこちらの動作状況で大きく違う。相手打撃の球の速さと球追い動作までの機敏さが⑤サーブ打球を完璧に打ち返すかどうかの決め手となる。トップ選手の戦いでサーブ打球速が180km/時を越えるようなケースはごく普通のことであるが、市民選手の場合はせいぜい100~120km/秒なのでサーブ守備動作が緩慢でもなんとかついていける状況なのである。

5.守備範囲
 図3はサーブ打球受け手の守備範囲と到達不可能範囲とを示したものである。可能守備範囲は、図2の余裕時間中に球が来るまでに守備選手が移動できる距離と選手が手伸ばしで守備できる範囲を合わせたものである。図ではピンクで示した。必要守備範囲をコートの寸法から5mとした。必要守備範囲のうち可能守備範囲がカバーできない部分(図では青ゾーン)は守備選手のラケットが球の来るまでに到達できない範囲となり、到達不可能範囲とした。
必要守備範囲のうち可能守備範囲の割合をカバー率とした。      

              図3.守備範囲と到達不可能範囲

6.静止構え型守備での計算シミュレーション
 陸上100m競争では日本記録が10秒を少し切ったところである。秒速に換算すると10m/秒である。テニスのトップ選手の球追い速度は、N選手の場合を例にとると8~9m/秒であった。100m競争に換算すると12秒0くらいである。しかし、こんな速度は一般的な市民選手には出せない。大学・実業団・女性トップ選手でもその8割程度がやっとである。おそらく多くの市民選手では約6割強程度が精一杯ではないだろうか。計算シミュレーションでは。大学・実業団・女性トップ選手で6.4m/秒、市民選手で5m/秒という速度で行ってみる。
 表1は静止構え型守備の計算シミュレーションで、守備選手はエンドラインギリギリで構えていると想定した。②は実業団・大学・女子トップ選手レベルを想定し、選手の運動能力を「敏捷性」の反応時間0.55秒、「球追いでの移動速度」は6.4m/秒とした。想定した選手の運動能力では、相手サーブ打球速が130㎞/時で可能守備範囲が手伸ばし範囲を含めて5.37mとなり完全に必要守備範囲(5m)をカバーしてしまう。しかし140km/時では95%、150km/時では85%、180km/時で61%となる。200km/時では捕球姿勢確保直前に球が来てしまうので、一歩も動けず手伸ばし守備範囲だけになりカバー率54%と落ちてしまう。また相手打球の到達が手の届く範囲であっても捕球姿勢確保前なので十分な打ち返しは期待できない状況となる。さらに重要なことは、試合の場合、相手の弱点が見つかればそこを突いてくるのは常識である。攻撃側は相手守備のカバーできないところへ必ずサーブを撃ってくる。守備側の到達不可能範囲が狭い場合はそこに撃ち込むのが難しいが、広ければ必ず狙ってくる。そういった意味でサービスエイスの確率はずっと高くなるであろう。到達可能範囲が10%以上ある場合(カバー率が90%以下、守備範囲に換算すると幅50㎝以上)ではほとんどサービスエイスを取られてしまうことになると言っても過言ではない。

      表1.守備範囲 計算シミュレーション



 表2③は一般市民選手・熟年選手について計算したもので、運動能力を「敏捷性」の反応時間を0.6秒、「球追い移動速度」を5m/秒として計算した。訓練が不十分(脳の訓練ルート開発が不十分)と想定しこのデータとした。想定の根拠は私の友人である。彼は大学時代TK大学のテニス部に所属しており関東学生リーグで大活躍していた。70才代になった今でも熟年テニス愛好者で、毎週末はコート通いである。データを計測してみると、サーブ打球速105km/時、反応時間0.6秒、球追い速度は約5mであった。大学時代は表1②のレベルであったと思われるが、熟年ということで③の運動能力あたりに落ち着いているのであろう。しかし、初心者や経験の浅い市民選手にとってはこれでもこのデータのような運動能力は結構レベルの高いものである。相手サーブの打球速に対してのカバー率は、110km/時までは100%であるが120km/時以上になってくると到達不可能範囲が出てしまう。市民選手でも150km/時近い速度でサーブを撃つ選手はいるようである。到達不可能範囲を弱点としてサーブ攻撃されてしまうのは避けられないことも多い。サーブだけでなくラリーの繰り返しで相手の打ちやすい球を返してしまったときならば強烈なスマッシュを撃たれてポイントを取られてしまう。打球速の速い選手には歯が立たないということなる。
 このようにテニスの守備では、相手打球速に対する守備カバー率が極めて重要である。

7.勝つための戦略
 熟年選手や一般的市民選手のテニスに対する愛好心には多くのパターンがある。健康運動としてのテニスを楽しむ、仲間と親しめるテニスを愛好する、勝負として楽しむテニス・・・・などなど。
 しかし、テニスをゲームとして楽しむ際に勝利を狙うのは当たり前であると思う。ここで、少しゲームに勝つための戦略を考えてみる。
 テニスの勝ち負けは、ポイントで決まる。ポイントはミスした場合にその相手に与えられる。ミスというのは、相手が打ってきた球を、①打ち返せるか、②打ち返したたまが所定のゾーン内にワンバウンドするか、の2つに大別される。①は球受けのテクニック、②は球打ちのテクニックであると言える。ここまでの解説は①についてであった。
 表1をよく見ると相手打球速に対する守備カバー率は、①守備選手の動作の機敏さで決まる。②相手選手の打球速で決まる、ということがいえると思う。ということで勝つための戦略として、①守備としての球受けの機敏性を上げてカバー率を上げる、②攻撃としての打球速を高める、という2点がクローズアップされる。その2で①の対応策としての「動的反射能力」活用型守備でのカバー率向上、その3でヌンチャク振り回し打法による打球速向上を考えてみる。

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