情報コード  DTD3
情報登録日  2019/10/25
情報作成者  河井正治

4 .テニス 2.守備 その3 「動的反射能力」活用
       ・・・・豪速球の打ち返し2・ ・・・

17.その2に続く。
 その2までで「動的反射能力」活用が優れていると解説した。「動的反射能力」活用とは、静止構えスタイルで相手選手のサーブ打撃を待つのではなく、事前に打者の打撃瞬間を予測して球追い動作を開始し、前へ移動しながら打撃瞬間を目視して打球方向を認識、移動の方向転換で対応するという方法である。効率を考えて、初めは前進分だけ後ろに下って構える必要がある。
 これまでの話で実際にどのように実施するかが明確にはわからないと思う。ここでは、実際の「動的反射能力」活用型守備の動作の状況を考えてみたい。日本トップのN選手がサービスエイスを取られてしまった時のケースを例にして考えてみよう。

18.相手のサーブ前の球上げ動作
 テニスサーブにおいては、一度球を空中に放り上げて、落ちてきたところをオーバーハンドで力一杯打撃するのが一般的である。図16は、2012年ジャパンオープンで日本トップのN選手からサービスエイスを取った時のB選手の球放り上げで、球が最高点になった時の映像である。
         


             図16.サーブ打撃前の球放り上げ

 一連の動作を映像から計測した。放り上げられた球は最高点が約5.1mであった。
 図17は、彼のサーブ打撃の球放り上げから打撃までの一連動作のスケッチ図である。
     

         図17.サーブ打撃の球放り上げから打撃までの一連動作

 左から球を放り上げて、相手コートに力一杯打ち込む動作がわかると思う。放り上げで最高点5.1mに達した球は、1m落下に0,45秒かかり、打撃点の高さ3.3mまでの落下に0.58秒ほどかかった。B選手の身長は185cmほどであり、この時打撃時に45cmほどジャンプした。最高点から打撃瞬間まで0.58秒ほどかかったことになる。時間の経過や高さなどの計測は厳密な精度でないので傾向の目安にしてほしい。
 一連の動作を見ての推察だが、最初の段階で相手コートを見て受け手側の位置や状況を判断し、放り上げる直前までにどこに打つか定めているような気がする。というのは、球を放り上げてからの動作はラケットでジャストミートするために上がっている球を熟視している姿勢である。打撃の瞬間は相手コート側を見ているが、この時点ではラケットの方向を変えて打つ方向を制御することは脳と身体動作の関係上もうできない。すなわち、サーブを打つ側の選手は、サーブ打球の方向を、球放り上げ直前で決めていることになる。
 この「球放り上げ直前で決めている」ことと「最高点から球が打撃位置まで落ちてくるのに約0.6秒かかる」ということが「動的反射能力」活用型の守備の重要なポイントになる。

19.静止状態からの「急発的守備動作開始」
 実際の試合での「急発的守備動作開始」状況を調べてみよう。
図18は、N選手のこの時の実際での試合でのサーブ守備の「急発的動作開始」状況の連続映像である。右から順に相手サーブの打撃瞬間から0.1秒ごとの映像である。0,1秒後の映像は前後では変化がないので省略した。下の表は、位置の項目はN選手の顎のあたりの位置を計測した。移動速度は1コマ前の位置からの移動距離から算出した。
   

          図18.N選手のサーブ守備の「急発的動作開始」状況

 表の数値をみると、やはり最初の0.2秒は移動なしで、0.5秒後には守備移動速度の8m/秒に到達している。0.6秒の時は後ちょっとで手が届くということで背伸び状態になったため9m/秒に速度が上がっている。0.2秒から0.5秒の間は移動速度確保の時間で、これは当初理論上移動距離について混乱を避けるため便宜上0として話を進めていたが、実際は身体の移動加速のため少しずつ動くことは当たり前で、この実際の計測で0.3秒後に0.2m、0.4秒後には0.5mの位置へ移動したことがわかった。
 この一連の映像を見て、この状況でもし仮に0.5秒後よりもっと早くに8m/秒の守備移動速度に到達できていれば、この時のように0.61秒の時点でラケットが20cm届かなくて相手のサービスエイスになってしまうという事態は避けられたことになる。

20.「動的反射能力」活用型守備
 「動的反射能力」活用型守備とは、事前に打者の打撃瞬間を予測して球追い動作を開始し、移動しながら相手打撃瞬間を目視して打球方向を認識、球追い移動を方向転換で対応するという方法であると前述した。その方法について詳しく考えてみよう。

 方策例1.あらかじめ加速区間分だけ下がって動作を開始する。
 図18の連続映像と表を見て、球追い速度がもう少し早く最高速度に達していたら相手サーブ打球に間に合ったことがわかった。みると球追いでの最高速度8m/秒になるのは理論通り相手打撃の0.5秒後であった。この間に進んだのは2.2mであった。
 サーブ受け守備で、あらかじめ動作を開始しておき、当初構えていた位置に到達したときは移動速度が8m/秒の高速度に達していたら、相手打球に楽に追いつき余裕を持って、思うところへ、思う強さで、打ち返すことができたであろうと考えられる。そのため、あらかじめ2.2m下がった位置に構え、相手サーブ打撃前に球追い動作を開始する。図19は、その状況と時刻を示したスケッチ図である。
 

              図19.「動的反射能力」活用型守備

 ①図の右上の位置(2.2m位後ろにさがって)で相手動作を見ながら構える。③で動き出して0.3秒後に相手打撃を目視すると、その時点で打球方向が認識でき、身体はもう球追い動作モードになっているので前の方へ移動を開始している。この時点では打ち返すべき球の位置が認識でるので、並行的に脳から方向転換(必要ない場合もある)と姿勢確保の命令が出る。④その0.2秒後で方向転換と姿勢確保の動作が始まる。この時点ではすでにコートのエンドラインに到達(位置して)おり、球追い動作速度も確保されている。⑤その0.2秒後(相手打撃の0.4秒後)には相手打球の飛んでくる位置に到達しており、捕球姿勢もキチンと確保されている。表4の①をみると、相手サーブ打球速が180㎞/時の場合球が来るのは0.58秒後、200㎞/秒の場合0.53秒後、230㎞/時の場合でも0.47秒後である。相手打撃から0.4秒後でもうその位置へ到達しており、姿勢が確保されているので十分に余裕を持って打ち返しができる。守備の穴がなくなるのである。もうサービスエイスを取られることはない。

方策例2.相手打撃の0.3秒前からの移動開始!
 「動的反射能力」活用が如何に優れているかをご認識頂いたと思う。実現には相手打撃の0.3秒前からの移動開始がポイントになる。
 しかし0.3秒前からの移動開始といっても現実にどういうタイミングかは具体的にイメージできない。そこで目安となるのが相手のサーブ打撃動作である。図20は、B選手のサーブ動作の球が最高位に達してからの連続映像である。ラケット旋回の速度が速いのでラケット自身の映像が写っていないのであるが、選手の動作はよくわかると思う。

              図20.B選手のサーブ打撃一連動作

 一番右のインパクト直後でこの時点から左へ0.1秒ごとの映像である。注目して欲しいのはB選手の視線の方向である。一貫してほうり上げて落ちてくる球をしっかりと見ている。この間は相手守備の位置や構えは見ていない。つまり打つ方向はもっと前に決めてしまっており、この間の一連動作はそれを実現するためなのである。相手打撃直前から移動を始める「動的反射能力」活用型守備を行っても守備の動きを探ることはできない。優利な展開ができるのである。打撃の0.3秒前は、映像から見ると球が最高点から1m弱落ちてきた時点で、選手打撃動作ではラケットを振り回し始めた時点である。自分が動き出す目標を、これらの相手選手の一連動作のある瞬間にするか、落下ボールのある時点で動き出すか、これは繰り返し練習で体得するしかないと思う。脳にきっちり訓練ルートをつくる必要がある。
 
方策例3.相手のサーブ打撃コースを誘導する
 再表示してある「その2」の表3をみると「動的反射能力」活用の守備では、サーブ打球速が192㎞/時の場合は必要守備範囲の94.6%をカバーしている。よっぽどギリギリのサーブを打たれない限り特に問題なく打ち返しができる。しかし、静止構え型守備では打球速が200㎞/時の場合88.6%、230㎞/時の場合54%しかない。「その2」の表4①の「動的反射能力」活用型守備でも230㎞/時の時は77%しかカバーできない。かちょっと選手から離れた位置を目指してサーブを打たれると絶対取れない。

       表3.N選手の守備に関する計算値(再表示)


 
     
 「動的反射能力」活用型の守備を上手に使うと相手のサーブの打撃コースを誘導することができる。図21は、「動的反射能力」活用型の守備での相手がサーブ動作を開始するまえの守備構え位置である。静止構え守備の本来の位置から2.2mさがってと説明したが、それは図21の上段の状況を想定してしまう。図21下段のように横に2,2m離れて構えることにすると、相手からはサービスエリアからは随分横にズレて構えたように見える。

                   図21.守備構え位置

 これにはもくろみがある。図22は、図21の下段の時の相手からみたスケッチ図である。この位置ならばどう見ても相手の守備可能範囲がサービスエリアの中央部までなく、ブルーに表示したゾーンには到達不可能に思える。サーブ打球速に自信のある打撃者は、当然サービスエイスを狙ってセンターラインギリギリの赤点線で囲ったあたりを狙って打撃するであろう。 図で右側の青で囲った範囲(バックハンド側)には撃つ気にならない。

       図22.サーブ打撃直前に移動(サーブ打撃選手にとって右エリア)

しかし図22のように、守備は「動的反射能力」活用型である。相手打撃瞬間直前から急速に移動を開始している。いどうとちゅうでの相手打撃瞬間に方向を定めて打球位置へ移動する。打球が守備位置へ到達した時には受け手は守備位置に来ており余裕を持って打ち返しを行うことができる。バックハンド側に球が来ても方向転換で容易に対応できる。事前の移動量は、後述するが、あらかじめ決めておく。

       図23.サーブ打撃直前に移動(サーブ打撃選手にとって左エリア)

 図23は、反対側にサーブが打たれる場合の図である。やはり、あらかじめの分だけズラして構える。こうすると多くのサーブ打者は左サイドラインギリギリにサーブを打ってくる。その後の対応は図22と同様である。
 「動的反射能力」活用型守備では、相手サーブ打撃の0.3秒前に動けば守備範囲が大幅に広がる。相手サーブ打球速が200㎞/時の剛速球サーブでは静止構え型で62.9%しかカバーできなかった守備範囲も「動的反射能力」活用では94.9%にもなる。超豪速球サーブの230㎞/時でも、静止型守備では半分はサービスエイスになるであろう54%であったカバー率が「動的反射能力」活用型守備では77.1%になる。
 「動的反射能力」活用とは、非常に重要なテクニックであることが理解できたであろうか。
 ただし頭に置いておかなければならないことは、これが計算上の数値ということである。試合では必ず相手の弱点を突いてくる。相手守備のカバーできないところへ必ずサーブを打ってくる。そういった意味でサービスエイスの確率は守備可能範囲のカバー率よりずっと高くなるであろう。到達不可能な範囲が10%以上(カバー率が90%以下、幅で50㎝以上)ならばサービスエイスを取られてしまう可能性が非常に高いと言える。

表4.「動的反射能力」活用の守備範囲(その2、①再表示)




21.脳の訓練ルートを徹底的に開拓する。
 サーブレシーブに「動的反射能力」を活用するには、まず相手選手の打撃直前に移動を開始する。打撃瞬間は「方向転換」で対応し、すぐ球追い動作に入ることができる。これだけで200㎞/時を越える相手打球が迫って来る前の時点で移動の完了と捕球姿勢確保ができ、打ち返し動作に十分な余裕ができる。素晴らしい技術なのである。
 しかし、相手打撃直前のどういうタイミングで動き始めるか、球追いにどういう具合で「方向転換」するか、を習熟しなくてはならない。これには繰り返し訓練しかない。
「動的反射能力」活用型のサーブレシーブ守備の訓練を考えてみる。
 このデータベースのスポーツ全般の最初の項で脳の訓練ルート育成の重要性を解説した。参照いただきたい。「そこではスポーツなどの繰り返しトレーニングが単に身体を鍛錬することが目的ではなく、脳の訓練ルートを開拓するという重要な役割があること、繰り返し練習が単に鍛錬よりも訓練ルートの開発・蓄積であることの方が大切である」と解説した。
 鋭い円滑な動作を行う脳の訓練ルートを開発するための繰り返し練習。それには繰り返し練習時の厳密な条件設定の重要性、同じ条件の繰り返しが必須である。一般的にサーブレシーブ練習時の球出しサーブ打ちは人間が行う。人間の打撃では、厳密に一定のコースや位置、定まった速度にボールを必ず打つことはできない。いくらサポート者が習熟していてもボールのコースや位置、速度はその都度必ず違っている。特に訓練のために高速サーブを打たなくてはならない場合はその傾向が極めて大きくなる。こういう状況では、打者自信が脳に訓練ルートを創りだす前に、位置その他の条件を確認しその後の動作の対応を考えるステップが必要となり、訓練ルートの開発の大きな妨げとなる。脳の訓練ルートの開発にはできるだけ条件が一定なことが重要なのであるとも解説した。
 ここで提案は野球のようにピッチングマシンを使うことである。200㎞/時を越える球出しができる装置はなかなかないかもしれないが少なくとも180㎞/時程度では訓練したい。ピッチングマシンは球のリリース直前からよく見える構造のものがほとんどである。選手に球のリリース瞬間の様子がよくわかる。横でアシスタントがシャドウ打撃を行ってもいい。サーブレシーブの選手の位置、球のワンバウンドの位置、球筋の高低、速度などの条件を一定にして、選手にはそこに来るのが分かった状態で、常に同じ側の、同じ距離の、同じ速度の、球を打ち返す訓練が重要なのである。
 経験的に1日30回程度で(100回くらいまで多いほうがいいようであったが)1週間から10日位行うと訓練ルートが出来上がってくるとも解説した。確実に選手の脳に訓練ルートができたと思われた時点で、条件を変えてその範囲を広げていくという風に行うといいと考える。

22.「急発的動作開始」での「動的反射能力」活用は重要技術である。
 「急発的動作開始」技術の重要性をまず言われるのが、短距離で速さ(タイム)を競う陸上競技のトラック短距離種目、競泳、スピードスケートなどのスタート局面である。しかし、スタートでは「必ず静止」という競技規則のため「動的反射能力」は使えない。そこで、静止後の急発進における選手の本能的な反動動作の回避技術(タメ姿勢)が重要となることは前に水泳スタートの項で詳しく解説した。
 しかし、球技での相手打球の受け技術では静止構えの制限はない。そこで「急発的動作開始」での「動的反射能力」活用が極めて重要となる。サーブ・スマッシュ(スパイク)・バッティング捕球など、球技では日常的に行われている。
 人間の「動的反射能力」の活用はテニスサーブ守備の厳しい局面に大きな貢献がある。静止構え状況より0.1秒の余裕時間を確保できる。テニスサーブ打球で考えると、打球速200㎞/時サーブでは守備選手に0.51秒で到達する。静止構え型守備では打ち返し体制確保されるには0.5秒かかるのでほとんど余裕がない。球追い移動時間は0.01秒しかなくほとんど動けない。手が届かないところは相手のサービスエイスになってしまう。「動的反射能力」の活用では受け手選手に0.1秒の余裕をもたらす。この余裕時間のおかげで4.75mが守備できる範囲となる。必要守備範囲を95%カバーできる。ほとんどサービスエイスを取られることがなくなる。
 「急発的動作開始」での「動的反射能」活用は重大な技術である。
 しかしそれには、あらかじめ相手選手のインパクトの瞬間を見越しての事前の動作開始という難しい局面が必要となる。相手選手の打撃の直前に行動を開始しなくてはならない。むずかしい技術であるかも知れない。
 これを克服するのが繰り返し練習による脳の訓練ルートの形成である。脳の訓練ルートの開発はスポーツ界では重要な訓練事項である。繰り返しということだけが重要視されて間違った訓練が行われている場合がよくある。脳の訓練ルート開発に関して、しっかり考えてみよう。このあと市民選手のテニスについて考えてみたい。