情報コード  DTD2
情報登録日  2019/10/25
情報作成者  河井正治

.テニス 2.守備 その2 「動的反射能力」活用
・・・・豪速球の打ち返し1・・・・

 

9.その1に続く
 表1①のカバー率の項をみると、相手サーブ打球が200km/時を超えるとワンバウンド打球でも余裕時間が0.03秒しかなく、受け手はほんの少ししか移動でない。ほとんど手伸ばし守備だけになってしまうので、守備範囲は3.15mとなってしまいカバー率は62.9%に落ちてしまう。相手のサービスエイスの確率は37.1%となり、3本に1本以上もやられてしまうことになる。
 重要なことはこれが計算上の数値ということである。試合の場合、相手の弱点が見つかればそこを突いてくるのは常識である。攻撃側は相手守備のカバーできないところへ必ずサーブを撃ってくる。到達不可能範囲が狭いと見とれる場合はそこに撃ち込むのが難しいが、広ければ必ず狙ってくる。そういった意味でサービスエイスの確率はずっと高くなるであろう。到達可能範囲が10%以上(カバー率が90%以下、守備範囲幅にすると50㎝以上)ではほとんどサービスエイスを取られてしまうと言っても過言ではない。
 高速サーブでは打ち返しには本当に余裕がない。余裕がないので相手コートの思うところへ打ち込めない場合が多い。平凡な球を返してしまい相手に打ち込まれることも多々ある。これに対して、神が人間に与えてくれた「動的反射能力」という能力がある。能力の詳細は、スポーツ共通その2の「急発的動作開始2」で解説した。
 テニス守備その2では、極めて重要なテニス守備への「動的反射能力」活用を解説する。

      表1.打球速と守備範囲との関係(①の再表示)



10.サーブ守備の捕球動作確保時間を詳しく見る
 内野手の捕球位置移動速度確保と捕球体制確保までの時間は、相手打者の打撃の瞬間から0.5秒と解説した。それを詳細に調べてみる。

                図3.捕球動作の時間的経過
 
 テニスサーブ捕球でともかく球まで到達できれば、守備ができてサービスエイスを避けることができる。つまり、受けての守備にとって守備位置までに何秒で到達できるかが極めて重要な要素なのであるとその1で解説した
 図7のように、人間は相手打撃の球受けなどの「急発進的動作開始」状況では、目や音での開始瞬間から身体が動き始めるまで約0.2秒かかる。移動が始まって捕球位置への移動速度が確保されるまでに(隠れ反動時間のため)さらに0.3秒を要する。合計で0.5秒である。このあと球の到達位置への球追い移動が行われる。移動速度確保の動作時の0.3秒間は身体移動の加速局面である。移動速度確保と同時並行的に0.2秒間に捕球体制が作られるので、0.5秒後に必要守備位置に到達した以降(捕球体制ができている)に球が来る場合は余裕を持って動作する(守備する、打ち返す)ことができる。これを余裕時間と呼ぶとした。 

11.実戦でのサービスエイスの状況
 図8は、2012年日本オープンでの実戦でのサービスエイスの状況である。手前がサービスエイスをとった外国勢のB選手で、とられた向こう側の選手が日本の第一者のN選手である。図8の左側映像がB選手の打撃瞬間で、右側が決まった瞬間である。N選手は球がラケットに20cmほど届かないという惜しい状況であった。放送のアナウンサーは、打球速が192km/時であったことを伝えていた。ビデオをコマ送りして計測すると、サーブ打球がN選手のラケット位置を通過したのは打撃から0.61秒後であった。
 図9は、上段の映像がB選手の打撃瞬間のN選手の構えである。下段は打撃から0.23秒後のN選手が動き出した瞬間である。上下を比べてみるとN選手はほぼ同じ位置の同じ姿勢であることがわかる。静止構え型守備で、約0.2秒後に球追い動作が開始されている様子がわかる。下段の映像は、N選手が守備のため動き出した0.03秒後ということになる。


    図8.N選手がサービスエイスをとられた瞬間       図9.静止構え

 図10は、この時のN選手の一連の球追い動作の連続映像である。打撃瞬間から0.23秒間続いた静止構えから0.4、0.5、0.6と球へ向かって移動している様子がわかる。表2は、この映像からの計測値で、身体位置(アゴ位置で計測)が0.1秒ごとにどう動いたかを示している。位置は向かって右側のサービスエリアサイドラインからの距離をメートルで示し、(cm単位で計算したが)画計測精度から考えて0.1m単位で表示した。移動速度は0.1秒前の位置からの移動量で計算した。守備範囲は、身体位置に手伸ばし距離1.35mを加えて算出したものである。ラケット横を通過した球の位置は3.8mあたりであった。

              図10、N選手の一連の球追い動作

             表2.N選手の球追い動作の計測値


 表の数値をみると、やはり最初の0.2秒は移動なしで、0.5秒後には守備移動速度の0.8m/秒に到達している。0.6秒の時は後ちょっとで手が届くということで背伸び状態になったため動作の勢いで0.9m/秒に速度が上がっている。0.2秒から0.5秒の間は移動速度確保の時間で、これは当初理論上移動距離について混乱を避けるため便宜上0として話を進めていたが、実際は身体の移動加速中も少しは動くことは当たり前で、この実際の計測で0.3秒後に0.2m、0.秒後には0.5mの位置へ移動したことがわかった。球追い時の身体移動速度が0.6秒後には9m/秒に達している。やはり彼は日本の第一人者だけあって敏捷なのである。しかし残念ながら球の通過時にはラケットが20cmほど届かなかったのである。

12.構え位置の悪さ
 「動的反射能力」活用型守備を考える前に、N選手のサーブ守備の構え位置の悪さを指摘したい。世界と戦うこれほどの選手が192㎞/時程度の打球速でサービスエイスを取られるとは情けないと思う。しかもそれはフォアハンド側である。それには守備構え位置に関するお粗末なごく初歩的ミスがあげられる。表3は192㎞/時のサーブ打球速の守備範囲の計算値である。青の下地で表記してある。この時N選手は、エンドラインの1m後方で静止構えをしていた。守備位置をエンドラインから1m下げたとして球到達時間を計算した。図14の分析で、静止構えから球追い移動速度が確保されるまでの0.5秒間に0.5m移動している。この分を加味して片側の守備範囲を計算してみた。表の片側守備範囲の項である。サーブ打球速㎞/時の時のN選手の片側守備範囲は2.37mで、全守備範囲は4.73m、カバー率94.6%となり、サービスエイスを受けることはほとんどない状況になる。  

    表3.N選手の守備に関する計算値

 



              図11.サーブ受け守備の位置

 図11は、一般的にサーブ守備の時の相手打球を待つ構え位置である。192㎞/時の速球を受ける場合、守備可能範囲は表3により4.73mなので、センターライン側のサービスエイスを避けるため、守備可能範囲をセンターライン側に寄せて図のように位置して構えるのが常識的である。これで相手がよほどエンドライン側ギリギリに打たないとサービスエイスにはならない。通常、だれでもが行う構え位置である。

           図12.N選手の構え位置と守備可能範囲との関係

 図12の左側の写真は、この時のN選手の構え位置である。右の図はこの位置に立つと青色の到達不可能ゾーンが生じて、相手はこのあたりを狙って撃ってくるであろうと思われる。
 事実このときその通りのことが行われた。図1の経過を見ると向かって右に寄り過ぎているので球に追いつけない。N選手ほどの試合巧者が信じられない状況である。何を考えているのであろうか。
 残念ながら、190㎞/時くらいのサーブ打球速で、しかもフォアハンド側で、球筋がサービスエリア中央ライン側で、サービスエイスを取られるようではとても世界の一流選手とは言えないと思うのだが。彼には「動的反射能力」活用という知識を知らないか、重要には考えていないようである。しかし、これでは世界のトップには立てない。

13.「動的反射能力」
 「動的反射能力」についてはインテリジェンスデータベースの「スポーツ共通 その2(急発的動作開始2)」で詳しく解説したがもう一度改めて考えてみる。
 人間の「急発的動作開始」時の反応状態は、そのときの身体状況が「静止しているか・動作中であるか」で大きく異なる。このことを体感するための実験をデータベースの「スポーツ共通 その2(急発的動作開始2)」で解説している。ぜひ体験してみて欲しい。
 図13は、急発的移動開始時に身体の移動速度の上昇(加速)状況を示した模式図である。  「急発的動作開始」状況では、静止からスタートすると必ず隠れ反動時間が生ずる。それには0.2秒ほどかかることが経験上わかっている。さらに大きな身体を急に最高移動速度に上げるには、慣性モーメントの関係で大きなエネルギーを要する。特に静止状態から移動状態に移る移動開始時に大きなエネルギーを要する。例えば電車などのスタート時でも進行開始時の瞬間に大きなパワーが必要なのは常識である。身体活動でも移動開始時は同様である。そこで静止状態から適正な移動速度を得る状態まで合計で0.3秒も時間を要してしまうのである。
          


              図13.急発的移動開始時の速度変位

 図14は、走行の場合の静止スタートと方向転換との違いを説明したものである。上段の図の静止からのスタート時は、号砲を耳で聞いて0.1秒後にスタートを脳が認識し、瞬時に判断動作開始指示が出される。身体はその0.1秒後に指示を受けて動作が開始される。すぐ走行状態を開始しようとするが、静止状態から隠れ反動時間と加速時間のために走行状態に移行するのにさらに0.3秒を要することになる。号砲からから走行開始の指示を受けた後に合計で0.5秒かかることになる。
 図の下段の方向転換の場合は、すでに走行状態になっているので、脳が耳や目でのスタート号砲(打撃瞬間)を受けてからの指示による方向転換動作開始は0.2秒後に行われる。そのときはもう移動速度は確保されているので隠れ反動や加速区間はなく0.1秒後の方向転換が行われた時点にはもう普通の走行が行われている。走りが継続されて方向が変わっている状態であると考えればいい。号砲からの所要時間は、静止構え状態よりも0.2秒も速く実行できるのである。

            図14.走行スタートと方向転換方向転換

 サバンナでの動物活動状況を伝えるテレビ放送などで、ライオンやチータ等の肉食獣の狩りで獲物のガゼルなどを全力で追っている映像を思い出して欲しい。必死に走って逃げるガゼルが一瞬右に左に方向転換して追跡をかわしている状況を覚えているだろうか。これが瞬時の方向転換である。同じ動作の継続という状況なので、左右に向きを変えているだけとなり0.1秒で方向転換ができるのである。地球上で長いあいだ弱肉強食の野生で暮らしてきた動物に生きるために神が与えてくれた能力なのである。もちろん人間にも備えられている。我々はこれを「動的反射能力」と呼ぶことにした。ただし180°反対方向の場合のように大きな方向転換では、一度速度がゼロ近くなるので図7の上段に近い同じ状態となる。そういった意味では方向転換方向の角度の大きさによって短くなる時間が異なることになるが、90°以内程度の方向転換では経験的に所要時間がさほど大きくはならないようである。

14.「動的反射能力」のサーブ守備への活用!
 静止状態からの「急発的動作開始」では、大きな身体を急に最高移動速度に上げるには、慣性モーメントの関係で大きなエネルギーを要する。そのため約0.3秒の時間を要する。図15の上段がそれである。通常では守備選手は相手が撃つ瞬間まで静止状態で構えて待つ。この場合、相手の打撃瞬間の目視から捕球体制完備まで0.5秒要する。静止状態での構え姿勢の移動速度ゼロから球追い動作の8m/秒の速さまでの加速の間である。この間に捕球姿勢確保が同時並行的に行われる。捕球姿勢確保の動作開始から0.2秒、相手打撃からの所要時間は0.4秒ほどかかる。

          図15.「動的反射能力」を活用した守備
 
 「動的反射能力」活用での方向転換は0.1秒程度ですむ。図15の下段のように、相手打撃瞬間にすでに球追い動作速度になっていれば、その後の動作は方向転換だけですむことになる。つまり、相手打者の打撃前に前の方に移動を開始してしまえば、移動中に目視で打撃方向を確認、方向転換と捕球姿勢確保動作が脳から指示される。捕球位置への移動は、すでに移動速度は確保されているので、方向転換だけですみ方向転換動作開始から0.1秒しかかからないことになる。打撃開始から0.3秒で球追い動作に入れる。球追い動作時間が0.2秒も早くなるのである。結果的に、論理上球に追いつく範囲が球追い速度が0.8m/秒の選手にとって、移動方向の片側で0.2秒分の1.6m、左右両側で3.2mも増えることになる。しかし、並行的に行われている捕球姿勢確保動作には動作開始から0.2秒かかるので、この間に球が来てしまうと、完璧な捕球作業はおこなえない。これは静止構えの時に手伸ばし守備範囲に打球が来てしまった場合と同じである。相手打球に追いつきさえすれば、なんとかラケットに球を当てるなどで後ろにそらすことはないであろう。なんとかサービスエイスは免れることもある。打撃開始から0.4秒後に捕球姿勢が確保されるので、真の余裕時間はその後の球が来るまでの時間になる。球追い移動中、並行して行われている姿勢確保動作の分より0.2秒間後に球が来れば容易に捕球できるころになる。結果的に静止構えの時より0.1秒余裕が増える。球追い移動速度が8m/秒ならば0.1秒の移動量は80cmとなり、守備範囲が両側で1.6m増えることになる。サーブ受けの守備必要範囲を5mとすれば、32%も守備範囲が増える。相手のサービスエイス率を大きく下げることになる。
 このように「動的反射能力」活用では大きく守備範囲を増やすことができるのである。効率アップの工夫として、相手打撃前の前進分として、あらかじめ守備位置を1~2m後ろにしておくことが必要だと思われる。後に詳しく解説する。

15.球に追いつく動作!
 球追い開始時間は0.3秒早くなるのであるが、完璧に相手のサーブをキチンと打ち返すには捕球姿勢を確保しなくてはならない。そういった意味で真の余裕時間は捕球姿勢確保の瞬間からとなる。そこで「動的反射能力」活用では「球への到達可能範囲」と「打ち返し可能範囲」という概念が生じる。「球への到達可能範囲」はなんとか相手打球に追いつける守備範囲(移動可能範囲)のことで、図15によると相手打撃瞬間の0.3秒後から球が到達するまでに守備選手が移動できる範囲である。球には追いつけるがちゃんと打ち返せるかは保証できない。「打ち返し可能範囲」とは、捕球姿勢が確保された後(相手打撃瞬間から0.4秒後)から球が来るまでに移動できる範囲である。ここでは相手打球の速い球でも自在に打ち返せる。真の守備可能範囲である。

 表4.「動的反射能力」活用の守備範囲



 表4は、静止構え方の守備と「動的反射能力」活用型の守備との比較である。①は、球追い移動が8m/秒でできるトップ選手、②が社会人・大学高校選手・女性トップレベル等の計算値である。表の中央部の黄色系の部分は「球到達可能範囲」で、右側の部分が「打ち返し可能範囲」の計算値である。各打球速の上段が静止構え、下段の青部分(「球到達可能範囲」は黄色)が「動的反射能力」活用型の守備のものである。
 表4の①の相手打球速が200㎞/時のサーブ受けの場合を見てみよう。静止構え方でも「動的反射能力」活用型守備でも、相手サーブ打球がワンバウンドで到達するのは0.53秒である。静止構え方守備では移動開始までに0.5秒かかるので余裕時間は0.03秒しかなく、ほとんど移動の余裕がなく手伸ばし守備だけになってしまう。そのため、守備のカバー率は62.9%になってしまい4割近くが到達不能範囲となる。相手サーブ打者は広い範囲が相手の弱点だとわかると必ずそこを狙って撃ってくるので、ほとんどがサービスエイスになってしまう。「動的反射能力」活用型守備では、相手サーブ打撃瞬間から0.3秒後には球追い動作が開始されるので「球到達可能範囲」の球追い余裕時間は0.23秒あり、手伸ばし守備範囲を含めて球追いの守備範囲は6.35mにもなり全域をカバーできる。ただし、捕球姿勢が確保されるまでには相手打撃瞬間から0.4秒かかるので真の余裕時間は0.13秒となってしまい、打ち返し可能守備範囲は手伸ばしを含めて4.75mとなり、カバー率は94.9%となる。到達不可能範囲は30㎝以下にない、ほぼ全域をカバーできる。相手も狭い範囲にはきっちり狙って撃ち込むのが難しくなってくる。おかげで200㎞/時の豪速球サーブをほとんどしっかり打ち返せることになる。230㎞/時の超豪速球でも、カバー率77.1%で、4分の3以上はサービスエイスを阻止できる範囲となる。
 「動的反射能力」活用型守備の効果を納得できたであろうか。
 表3②は社会人・大学高校選手・女性トップレベル等で、反射能力はほぼトップ選手と同じで球追い移動速度がトップに対し8割程度としての計算値である。守備のカバー率を見ると、相手サーブの打球速が150㎞/時では静止構え守備は91.5%の守備範囲で、到達不可能範囲が50cmほどになり、相手のサーブ打者は必ずそこを狙って撃ってくると思われる。「動的反射能力」活用型守備ではカバー率99%となりほぼ全領域で打ち返しができるようになる。160㎞/時では89%が100%に、200km/時の豪速球サーブではカバー率が67%であったのが87%となる。
「動的反射能力」活用がどんなに価値があるかがわかると思う。

16.その3に続く。
 「動的反射脳」活用とは、静止構えスタイルで相手選手のサーブ打撃を待つのではなく、事前に打者の打撃瞬間を予測して最高速で開始し、前へ移動しながら打撃を目視して打球方向を認識、移動の方向転換で対応するという方法である。効率を考えて、初めは前進分だけ後ろに下がる必要がある。
 ここまで「動的反射能力」活用が優れていると解説したが、実際にどのように実施するかが明確にはわからないと思う。その3では、実際の「動的反射能力」活用型守備の動作の状況を考えてみたい。そのあとトップ選手を例にして市民選手でのテクニックをも考慮したい