情報コード  DXY1
情報登録日  2019/07/10
情報作成者  河井正治

 データベースの野球で解説したのは、ピッチング、バッティング、内野守備である。見所は他にも連携プレーや攻撃作戦など多数あるが、一応ここでは上の3点で考えてみる

その1.ピッチング

1.投球動作
 ボールを投げるという動作は、まず構えの時に持っているボールを、投球動作を行うことにで加速して、最高速度になったとき、ボールを手放す(リリース)ということである。手放されたボールは、もう加速されることはないので球速はボールが手を離れる瞬間の移動速度に相当する。ボールを持った手先(指)は、手放されるまでボールと一緒に移動するので、リリースの瞬間のボールの移動速度は手先の移動速度と同じである。
 以下、このデータベースの野球のピッチングの項で詳細な解説をしているので、参照いただきたい。図1.は、ある高校選手の投球動作の一連のスティック図である。

                図1.投球動作のスティック図

 この図は、ビデオの映像をコマ落としに再生し、スティック図を作ったもので、右の3コマは0.0333秒間隔の画像である。右から2コマ目の直後にボールをリリースする直前のものと思われるがリリース瞬間の画像は撮れていない。

2.球速をきめる5つの並行動作
 データベースでの解説で述べたように一連の動作で行われているボールの加速は、1)足の踏み出しによる身体の移動、2)肩のせり出し(ローテーション)、3)肘の移動(上腕の旋回による)、4)手首の移動(腕の旋回による)、5)手首のスナップ動作、の5つの並行動作によって行われている。この5つを担当している身体の各部首がリリース瞬間にどういう風に前へ進んでいるかが重要である。ボールは前方向に投げるので、各部首がリリース瞬間とその1コマ前の映像の1コマ間で前に進んだ量の合計がボールを加速するということになる。

         図2.球離れ直前と1コマ前の映像    図3.踏み出しによる移動

 図2のリリース直前とその1コマ前の画像を比較してみると各部首の前への移動がよくわかる。図3のように、身体を示す黒線をかさねてみると、踏み出しによる身体の移動は、首の部分で見ることにする。それは、ボールを持つ手がコネクトされているのが肩、肩がコネクトされているのが首なのだからである。
 肩のせり出しは、4図のように投げる動作を2コマ重ねて表示したものでよくわかる。投球動作で肩を後ろに引いていたのが、リリース直前で前にせり出してくる(肩のローテーションという)。ただし、肩が胴体にコネクトされているので、計測量には胴体の首の部分の移動量も加わっている。正味の肩の移動量については図3での計測値を引かなくてはならない。同じく図5は肘の移動量である。肘の移動量は上腕の旋回によるものである。横からの映像で直接計測する。正味の肘の移動量は同様に図4での計測量が加わっているので、その分を引かなくてはならない。

       図4.肩のせり出し量       図5.肘の移動量      図6.手首の移動量

 手首の移動量も図6の通りである。ただ立体的な移動をしている手首については横からの映像のみでは解析できないので、別に腕の旋回角を計測し回転角から円周率計算で手首移動量を算出する。詳細はデータベースの野球のピッチングの項を参照いただきたい。
 テレビでの著名なピッチャーやコーチ・解説者からよく「スナップを効かせた投球」という言葉を聞く。これも投球動作でのボールの加速に寄与していることがわかっている。 

               図7.スナップを効かせると加速する

 図7は、右の列はスナップをきかせた場合、左の列は、何もしないそのままリリースする場合である。リリース直前とその2コマ前の手の状態のスケッチ図である。左列のそのままの図を見るとボールの移動は肘の旋回だけで行われて手首での加速はない。右列の図の手首を使う場合は当初後ろに反らせた手がリリース時には前にかしげるのでその分ボールが前に進み加速が行われる。手を後ろに反らせた時と前にかしげた時でボールに位置は、身長170cmの筆者の手で測ると約13cmであった。これをリリースの瞬間に1コマ位の時間に行うことができれば、計算では加速分は14km/時にもなる。

3.ある高校野球のピッチャーのデータ
 当時3年のピッチャーC君は、身長178cmで骨格もしっかりした運動能力の優れた逸材であった。その時点の彼の平均投球速度は約125km/時であった。表1は、C君そのときの投球データである。

         表1.計測データ

 

 データベースの野球投球の項での解説で、ピッチャーの球速を決めるのは、1)~5)の5つの並行動作ということである。注意しなくてはならないのは、3)は上腕の旋回、4)は腕の旋回によるものであることである。
 1)については、陸上競技の100mが10秒00の速さは時速で36km/時に相当する。0.1秒間に1mの移動距離である。彼は十分に踏み込みを行っていると考えられる。
 2)については身体の構造上、プロの選手でもこの程度だと思われる。
 3)についても、上腕の可動範囲から考えてこの程度であろう。
 5)について、この選手は手首を全く活用していなかった。平均投球速度約125km/時の彼の大きな手の手首を使うとここでの加速分は15㎞/時ほど稼げるので、球速は多分140㎞/時ほどにもなり、高校生の速球ピッチャーと言われるようになったかも知れない。
 表から、並行的に行われる動作によって加速分の割合が異なることがわかる。ピッチャーの球速アップのアプローチに極めて重大なヒントが隠れているのである。

4.ヌンチャク振り回し技術
 野球のピッチングではヌンチャク振り回し技術が重要である。表1の4)の項に大きな影響を及ぼす。データベースのスポーツ共通技術その3「振り回し旋回技術」で詳細に解説した。

           図8.投球動作の腕の旋回はヌンチャクと同じ原理

 図8は、ヌンチャク振り回し技術で投球動作の腕回転が実行されていることを示したものである。プロ野球の速球投手はほとんどがそうである。
 ヌンチャクは、振り回しの最終段階の手の動きの停止で攻撃バーが旋回を始めると、攻撃バー自身の旋回が短時間になるので、その加速力が増大して追加される。腕がヌンチャクの攻撃バーに相当する。投球のリリース直前なので腕の旋回を短時間に行うことが効果的である。腕旋回を短時間で行うにはコツがある。可動範囲を大きくするために肘を高くしたままの姿勢でリリース直前まで腕の旋回開始を我慢することが大切である。この技術を使っているかどうかは、リリース時の肘の高さでわかる。「ヌンチャク振り回し技術」では球速を20から30㎞/時もさらに稼げることがわかっている。
 ヌンチャク技術は今や球技スポーツでは常識。プロ野球世界でも常識である。リリース直前に肘を高くする(ハイエルボウ)ことはあらゆる球技スポーツでは球速度を高めるためのテクニックとしてフルに活用されている。

                 図9.プロ野球S選手の選手の投球

 図9は、2018年度日本シリーズ選手第1戦のH球団の先発S選手の投球の連続画像である。この時スコアボード表示では球速が152km/時であった。画像は球の手離れ瞬間を⑤とし、その2コマ前からである。リリース直前のコマ④の画像ではやはり肘は高いポジションになっている。ある解説者は、「肘から投げている」と言った。なかなかの表現である。

5.ピッチング動作の見所
 ここまでの解説はピッチャーの球速についてである。実際の戦いでは、リリース瞬間のボールの握り方で飛翔ボールに回転をかけて球道を曲げ、変化球技術を駆使して相手バッターにジャストミートさせない(あわよくば空振り)ことを狙って投球するのが常識である。それにしても球速が速くすることはピッチャーの最重要課題である。
 野球観戦のピッチャー観察では、投球技術を見てみるのが面白い。実際にはビデオのスローモーションやコマ落とし再生はできないので5つの動作を明確に見極めるのは難しい。しかし、足の踏み出し動作は観察できる。踏み出し深さはどうか、踏み出しの鋭さはどうか、など球速の30%程も占める加速技術の「踏み出し」、選手はどのくらい理解して努力しているのであろうか。
 リリース時の肘の高さを見てみよう。「ヌンチャク振り回し技術」の活用はどうだろう。実践での動作がきわめて速いのでなかなかわからないのだがなんとか見極めてみよう。選手がどのくらい技術を身にしているか、極めて興味深い。
 このような視点で観察するとピッチャーの成長段階がよくわかる。高校野球は特にそれが顕著である。プロ野球選手でも基本技術ができてない選手も結構たくさんいる。
 高校野球やプロ野球観戦で、ピッチャーの成長段階をみてみるのはいかがであろうか。