情報コード  Dz21
情報登録日  2019/03/14
情報作成者  河井正治

Ⅰ.各種のスポーツに共通する科学 その2(急発的動作開始1)

・・・・反動のタメ姿勢活用・・・・

1.「急発的動作開始」技術は勝負を決める。
 反射的に動作を開始することを「急発的動作開始」と呼ぶことにする。急発的に動作を開始なしなくてはならない状況は、多くのスポーツで当たり前のことである。むしろその動作開始の出来ばえが勝負に大きく影響をする場合が多い
 競泳を初め陸上競技の短距離トラック種目、スピードスケートなどの速さ競争の競技での号砲スタート動作ではそこで差がついてしまうと挽回するには莫大なエネルギーが必要となってしまう。競泳のスタート解説の項で、号砲1発で飛び込む競泳のスタートでは反射的に動作を開始するテクニックがタイムを左右するということがわかった。反動動作の処理問題である。図1(昔のアナログビデオ映像、解像度が悪いのはご容赦)、図2のスタート台上での動作で、下側の選手が沈み込み反動をしている様子がわかると思う。反動沈み込みがあると0.2秒もの差がつくこともわかった。詳しくは競泳のリアクションタイムの項を参照してほしい。

                図1.タメスタートと反動スタート
       

                 図2.スタートのスティック図

 図3の野球の内野守備でも敵が打った直後の守備動作開始は極めて重要である。飛んでくる打球に遅れを取ったらヒットになってしまう。チャンス時なら決勝点になるかも知れない。

                  図3.野球の内野守備
       

 図4のようにテニスや卓球などの対面型球技では、敵者がサーブやスパイクを打った瞬間、打球に遅れを取ったらポイントになってしまう。マッチポイント時ならば負けてしまうことになる。

 

                 図4.テニスのサーブレシーブ
      

 柔道などの格闘技では相手と組んだ状態で技をかける時、沈み込むなどの反動動作をするとピクッと身体が動き、敵は一瞬に感じて技回避動作を開始してしまう。技かけの反動動作時間は多分競泳の場合と同様の0.2秒位であろう。敵の技防御動作開始をたくみに反動回避で行えばそれも開始まで0.2秒くらい。技かけと防御動作開始が両者同時なら、おそらく技はかからないことになるであろう。
 スポーツにとって極めて重要な「急発的動作開始」の技術に関しては、残念ながら全般的に競技力向上の場ではあまり科学的に深く考えられていないようである。

2.「急発的動作開始」の科学
 「身体の動作システム」の項で解説したようが、人間の身体運営は、図5に示すように、目や耳などのセンサーの情報を神経で脳に伝達し、脳からの指示で筋肉を作動させて身体動作を行うという方式で行われる。青い矢印は神経による情報の伝達と考えていただきたい。目や耳の信号が0.1秒で脳に伝達され、状況の識別、動作選定作業が脳内で行われ対応動作の指示が筋肉の方へなされる。そして0.1秒後に次の目や耳からの信号が認識される、というサイクルで行われる。

             図5.頭脳と神経による動作の反応系
        
経験的には、どうも約0.1秒間隔でいろいろなことがおこなわれているようであることは前述した。この間隔は人によって(0.08~0.12秒位(約20%)変動があるようで天性のものだと思う。訓練程度も影響があるかもしれない。工学的には、「人間の身体活動は約0.1秒間隔のクロックで制御されている」と考えると述べた。さらに、人間の身体各器官(筋肉や臓器など)の動作制御は、「自立分散型制御」と呼ばれ、脳からの指示があれば、その後の作業は脳の関与なしに各部所で自立的に行われるという方式になっている。脳は必要な器官に動作開始の指示をするだけでいいのだ。一定間隔で制御を間欠的に行いその間は惰性や自立動作に任せるという制御形態は、工学的には「インチング制御」というと解説した。天の創った素晴らしいメカニズムであると思うと述べた。さらに、通常動作では、脳内の一般ルートを介して作業が行われる。その情報を脳で識別し状況を把握し、対応動作を選別し、筋肉への指示を行う。一般的な生活活動の動作はこのように行われる。しかし十分な訓練によって対応動作が明確な場合、識別後の筋肉への動作指示は、対象が習熟動作なので訓練ルートを介して直接的に行われる。このルートでは脳内の作業が大幅に少なくなるので、対応が極めて速く行われるということであった。これがいわゆる「訓練ルート」ということであった。

3.「急発的動作開始」の反動動作

                図6.持ち上げ反動

 スポーツにおける「急発的動作開始」では、止まっている状態から動き出すまでの時間をできるだけ短くすることが要求される。早くスタートすることやボールに素早く追いつくなどである。ところがこれを大きく阻害するのが「反動問題」である。
 脳の経験的な学習で人間は筋力の不足分を「反動」動作で補おうとする。図6のように、人間は台の上の軽い荷物はすぐ持ち上げてしまう、しかし、多少重いものでも頭を振って反動をつけてなんとか持ち上げてしまおうとする。
 人間は静止状態から「急発的動作開始」する場合は、そのまま無意識に行動すると習慣的に必ず反動をとってしまう。しかし、反動を取るための頭を振り込んで沈み込む時間が余分にかかることになる。通常の生活の中での動作ならば全然問題にはならないが、競技において遅れをとってはならない事態の「急発的動作開始」の場合には「反動」を取るとその分の所要時間が増えてしまい遅れをとることになる。スポーツの重要局面で、「どうやってこの反動時間のロスを解消するか」、極めて重大な問題である。われわれはこれを「反動問題」と呼んでいる。

4.反動動作のメカニズム
 反動を取る局面とはいったいどういう状況なのであろうか。

      図7.筋肉収縮による反発力             図8.反動の様子

 
 図7は、左の方へ引っ張る力がかかっている状態で、筋肉が伸びると反発力が発揮できる場合での筋肉収縮による力の発揮状況である。①のように筋肉が最大収縮している時、脳から急伸長の指示が来てパッと伸びる状況では、左へ引っ張る反発力が最大になる。ところが②のように中途半端に伸びた状況では、最大収縮①との差分だけしか伸びず反発力は小さくなってしまう。③のように伸びた状態からはこれ以上伸びないので反発しようがない。しかし、スタートジャンプで空中に飛び出すような場合では、当然最大の勢いが必要となる。仕方ないので図8のように、選手は経験的に一度最大収縮状態を作ってから、筋肉を急伸長させて大きな反発力を得ようとする。必要な反発力を確保するための瞬時的筋肉収縮動作が行われる。これが反動動作の局面ということになる。当然、①に対して筋肉収収縮という作業が増えるので、この分動作時間が増えることになる。図8は、脳からの動作指示の状況を示したものである。脳からの指示があって、②も③も筋肉は半ば伸展状況なので反動のための最大収縮状態を作ってから、いっきに伸長動作を行う。この「収縮→伸長」動作が反動動作なのである。1工程増えることと、それが収縮から反転への逆転切り替えなのでどうしても動作時間を要してしまう。
 競泳のスタートでは、図1の映像や図2のスティック図をみると、号砲直後の飛び出し動作時に、反応の遅い手前の選手の反動のための沈み込みの様子がよくわかる。

5.「反動問題」
 競泳スタートでは、号砲直前の「よーい!」掛け声のときに静止した「構え」姿勢で静止しなくてはならない。 反動の遅れを回避するために、上の選手のように反動時の最も沈み込んだ姿勢(タメ姿勢)を取ることで対応する。こうすると号砲時は筋肉が収縮状態なので、後の動作はいきなり直ぐ筋肉の伸長に移行でき反動ロスが少なくなる。これがスタートテクニックと言われる。
 「急発的動作開始」時にどういう方法で対応するかを「反動問題」と呼ぶ。「反動問題」について、対策の「タメ姿勢」について詳細は、水泳の項の「スタートリアクションタイム」を参照いただきたい。
 反動ロスは、個人差やスポーツ種目によって異なるが、計測してみると平均的に0.15~0.25秒くらいが一般的である。ロス回避の方法はスポーツ種目によってケースバイケースとなる。
 スポーツにおいては「急発的動作開始」が重要な場合が極めて多いのであるが、残念ながら全般的に競技力向上の場ではあまり科学的に深く考えられていないようであった。
 「反動」動作が生じるのは、静止状態から「急発的動作開始」の時である。競泳スタートのように大げさに頭を振る反動動作ではなくとも、「急発的動作開始」時に静止姿勢(構え姿勢)を取っていると、動作にかかわる多くの筋肉のうち必ず身体のどこかの筋肉が伸びた状態になっている。「急発的動作開始」時には、大げさな動きはない場合でも体内では必ず急発的な動作に備えた小規模な筋肉の収縮が行われる。「反動動作」と同様な急発準備の作業が行われることになる。その反動ロスはやはり0.15~0.25秒くらいとなる。これは動作上目に見えないので「隠れ反動時間」と呼ぼう。ということは、身体運営の構造から考えて人間は静止構えからの「急発的動作開始」では必ず「反動動作」が生じてしまう。避けられない「反動動作」、これには、0.2秒ほどの時間が必要となる。0.2秒のタイムロス、これが致命的になる競技(野球守備や球技のサーブレシーブ等)では、最も重要な課題のである。詳細はそれぞれの種目の解説の場で行う。
 静止構えをとらなくていい場合には、人間の「動的反射能」活用の素晴らしいテクニックがある。詳細を次の「スポーツ共通 その2(急発的動作開始2)」に継続して解説する。