「スポーツセラピー」 


1.歴史的効果
 JOC競泳強化コーチ時代に始めて大変効果をあげた競技力向上の強化手法は、選手の水中映像を撮影し、選手と面談しながら、その場でビデオ映像をコンピュータで解析して、選手の動作の効率や是非などの判断をし、タイムアップへの対策を共に考えるというやり方である。これは大変効果的で、バルセロナの岩崎恭子選手、北島康介選手のアテネ・北京、リオでの金藤理恵選手の金メダルを生んだ原動力となった。
 十数年前に1回5日間の日程で、カルフォルニア大学SB校の水泳部の指導をこの手法で行ったことがある。何人もの金メダリストを生んだ名門水泳チームである。最初は私自身の研修ということで、費用はこちら持ち作業をやらせてもらうという形で始まったのだが、先方はその効果が素晴らしいことに感動し、そのあと4回もやることになった。1年間に5回もカリフォルニアに通うことになった。当然、後はすべてC大学の招聘という形であった。結果的に、それまでの多くの金メダリストが樹立した大学の最高記録を全部塗り替えることになり、「You are Great Job!」と賞賛された。この手法は素晴らしい効果を生むのであると確信した。
 最後の大学主催の意見交換会で、この手法が話題となり、当初私は「クリニック」と呼んだが、先方からは、そうではない「クリニック」は医学処理を伴う行為をさすので、これは「セラピー(therapy)」だと言われた。そこでこの時は「Swimming Therapy」という言葉を使った。この手法は水泳だけでなくスポーツ全般を対象にできるので「スポーツセラピー」ということになる。

2.「スポーツセラピー」 基本的考え方
 成果向上を狙う選手(できればコーチと共に)に、自分の動作を見せ、定量的に解析することによって、動作の成果や効率の生まれるメカニズムを科学的に理解し、その対策を自らも参加して策定し、その後自分自身で習得するよう努力させることように導く手法である。
 計測や解析は、このWEBのデータベースに記載している最先端インテリジェンスを駆使して行われる。
 その後の練習もコーチ同席であったので、その内容が充分理解されているので、選手自身の努力を重点的に支援できる


3.具体的方法
 第1ステップ  選手の動作を撮影する。カメラは市販のカムコーダーでOK。
         1秒間30コマ(通常仕様)でOKだが、球技では1秒間120コマ程度が
         必要の場合がある
         殆どの場合、解析の容易性から撮影は1方向で可。


         
 第2ステップ  セラピー作業  選手・コーチと共に 
        ―――――
          1.問診:選手の狙い確認
          2.動作観察 映像観察意見交換
          3.定量解析 解析ソフト(その場で選手と画面を見ながら実施)
          4.現状認識
          5.対策策定、訓練方法示唆
          6.次回セラピーの期日設定・・・・期日目標設定
        ――――― (セラピー作業 1個人 正味30分~1時間)
          7.診断書 翌日(連続作業なら2時間後) 


 第3ステップ  それに従い選手自身での習熟訓練、コーチが支援
  

4.サンプル 野球ピッチャーの診断書
 例としてある県の弱小高校野球部のピッチャーの診断書を記載した。選手は監督やコーチと一緒にセラピーを行った。自分の状況を示す数値が出てきて、その対策が話し合われていく過程で、選手はじっと黙り込んでいたが目を輝かせて聞いているように見えた。
 最終的にこの選手は球場の速度掲示板で球速139㎞/時を出し、甲子園出場はならなかったが、県予選会で3勝を上げた。毎年出ると負けであった弱小チームが4回戦まで勝ち進んだという結果になった。

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           セラピー診断書           セラピスト 河井正治
種目 野球  ピッチャー     氏名 B高校 C選手  3年生  投手
目標 1.7月からの甲子園県予選で1勝以上したい。
   2.速球を上げたい。具体的に140㎞/時以上の球速がほしい。現在は125㎞/時位である。
投球フォーム
  —0.266秒 —0.20秒 —0.1333秒  —0.0666秒    0.0秒    フォロースルー


・連続映像からの所見
撮影は1秒間30コマで行われた。1コマの所要時間は1/30秒となる。表示の連続映像は0.066秒間隔(1秒間に15コマ相当)で、リリース直前を0.0秒として、4コマ前からを表示した。投球の球速度を決める要因は、右足第一歩の踏み出しによる胴体の前進、構え時に後ろに引いた肩の投球動作にともなう前へのせり出し、手の上腕の前への旋回、腕の旋回、手首スナップの前への旋回、の5つが要因とわかっている。映像から、第一歩の踏み出しはある程度十分なようである。肩のせり出しもしっかり行われているように見える。手の上腕と腕の旋回については、まぁ行われているがもう少し強くやれそうである。手首のスナップは全く行われていないように見える。全体的にひ弱な投球フォームで、改善の可能性が多いと思われる。
・5要素の計測結果
5要素の計測は、下図の右上のようにリリース直前のコマと次のフォロースルーのコマのスティック図を作成し、下図の左下のように重ねて計測する。


  
 結果を上の表に示した。足踏み出しの加速は全体の21%もあり重要な動作であることがわかる、しかし、トップ選手では30㎞/時を超えるので少し足りないようである。肩のせり出しによる加速は7.9%しかない。これももの足りない。上腕や腕の旋回は両方とも40%を超えており、影響力の大きい動作である。上腕の旋回はなかなかの技術であると判断されるが、腕の旋回による加速が少ない。球速が150㎞/時を越えるトップ選手ではここで60㎞/時を越える加速を得ている。さらに手首返しによるスナップ加速が全くない。本来ならこれで15㎞/時程度の加速が得られる。はずである。総合的に球速が125㎞/時程度になってしまいピッチャー投球としては物足りない。
・今後の展開
3つのトライを実施してはどうだろうか。第一は、ピッチング動作の第1歩の右足の踏み込みを下図の左側ように深く(遠く)してみよう。ちょっと深くするだけで加速分を5~10㎞/時ほど稼げると思われる。


   
第2は、手首のスナップを効かせる投げ方をするよう心がけるトライである。上図の右側に示したように投げる直前に手先を後ろに反らせて置き、リリースの瞬間に手首を返して手先を前につき出すようにする。いわゆるスナップを効かすという方法である。上手にできると10~15㎞/時ほど加速分を稼げるであろう。
第3は、表の4)に示した肘の旋回を大きくする方法である。一般に力いっぱい球を投げる時のリリースの瞬間では、構えている球の位置から最終位置(フロースルーの手先)まで、可動範囲内を一気に目一杯手先を振るという動作を行う。


 
上の左2つのスケッチ図のうち左側はC君の動作を描いたものだが、中図のようにリリース直前に肘を高くしてボールに位置を更に後方で低くして一気に動作すると、ボールリリース瞬間の肘の旋回角は赤矢印のようにきわめて大きくなり、瞬間の旋回角速度を大きくすることができ、結果的に大きな加速が稼げる。プロ選手などはここで60㎞/時以上を得ている。写真はあるプロ選手で160㎞/時を出しているリリース直前の様子である。
この3つのトライに取り組んでみよう。
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5.効果の上がるスポーツセラピー
 今までの実績で効果が上がることはわかった。水泳では、世界記録や複数の金メダル、カルフォルニア大学での最高記録の更新などの多くの実績を上げることができた。有名選手だけでなく学童・中学・高校の一般選手でも自己ベスト更新の多くの実績がある。向上を目指すアスリート達は、ぜひ一度セラピーを受けてみることが望ましい。決定的な成果が上がると考える
 当然セラピニストにはスポーツに対するインテリジェンス(知識・知恵・工夫)のセンスが必要である。科学的思考が必需なのである。最悪なのは自身のプアーな成功物語による根拠のあやしい信念で指導をしようとすることである。日本のスポーツ界の最大の弊害である。非科学的理論や手法を固執し、自分との上下の関係を重視するという指導者群である。  大きな問題なのが、現状では適切な人手がいないことである。そこでセラピストの養成の必要ある。セラピストの素養を身につければ、将来的にはビジネスも可能と考えているのだが。 本アカデミーではセラピストの養成は1つの重大テーマとして考えている。  もう1つ問題なのがコストである。この効果の上がるセラピーだが、選手個人との1対1での作業になるのでセラピストを拘束しなくてはならない。ケースにもよるが、撮影・セラピー作業・診断書作成など合わせると1件で3~5時間が必要になる。機材のコストや輸送や移動の会費も馬鹿にならない。コストがかかってしまう。水泳のスイミングクラブや大学チームなどの予算を確保できるチームを除いて、とぼしい予算でやっと情熱だけで頑張っているアスリート達にはなかなか手が届かないという極めて大きな問題点がある。  当面の間、本アカデミーは会員を対象に、輸送・交通費は別にして、1件5000円で実施する。ただし、選手が高校生以下の場合は会員でなくていい。関係者が会員であればいいとする。  申し込みは、当分の間、会員から主査個人のアドレスにメールしていただきたい。フォーマットはない。本アカデミーが体制を整えたら、申し込みの手順もしっかり整理したい。