情報コード  DTS2
情報登録日  2019/06/20
情報作成者  河井正治

4.テニス 1.サーブ技術 その2 豪速球サーブの科学

・・・・ヌンチャク振り回し打法・・・・

1.世界のトップ選手の映像を解析する。
剛速球サーブ打球の打撃法を解析するために好調だと210km/時以上ものサーブ打球速を誇る世界トップ水準のラオリッチ選手の映像を見てみよう。図1は、全米選手権の試合中のサーブ動作の連続映像である。たまたまこの時の打球速は200km/時程度であった。

              図1.ラオリッチ選手のサーブ映像

 ビデオの映像からの映像なので、1コマ0.0333秒間隔である。右から2つ目の映像がインパクト瞬間である。その左側の1コマ前からインパクト瞬間のわずか0.0333秒間のラケットのフリで200km/時以上の高速が生まれていることになる。

2.スティック図を作る。。
動作の状況を詳しく調べるために関節を結んだ線で描かれたスティック図を作る。

              図2.動作の連続スティック図

 動作の解析はスティック図で行う。図1は、図1の連続映像の動作をスティック図で表現したものである。この図をみると選手の一連の動作の状況が写真よりよくわかると思う。スティック図は、動作解析には必需のものである。図の時間経過は、ビデオの1コマの送りは0.0333秒なので、連続図は0.0333秒間隔ということになる。
 図3にスティック図作成の手順を示す。分かりやすいように腕と手は青線、両肩を結んだ線は赤線、軸足と胴体・首を結んだ線は黒線で示した。解析はこのスティック図を用いて行う。 図4に、計測するための寸法の確定の方法を示した。選手の直立状態に近い姿勢の時の映像より、スティック図空間の寸法を選手の身長に置き換えて行う。ラオリッチ選手の場合身長は196cmなので、青線の長さが196cmと認識して全画面の寸法計測をする。


       図3.映像からスティック図を作る。     図4.身長基準による寸法の確定

3.サーブ動作の分解
 ボールはラケットとのインパクト後もう加速は行われないので、打球速度はインパクト瞬間のラケットの移動速度で決まる。最終速度はインパクト瞬間とその1コマ前のラケットの変位量で計測する。打撃のための総合動作による身体各部の変位量が蓄積されて、最終的にラケットの移動に合成される。そのためこの最終の2コマの各部の部分の変位が重要となる。

         図5.ラケットの移動速度    図6.インパクト瞬間
              が打球速を決める        とその1コマ前
               
3-1.複数の動作が並行して行われている
 図5のように、ラケットを速く前に運ぶには選手の動作全体の内の前に進んでいる動作が重要である。図6の2つの図を注意深く比べてみると、胴体は前方へのジャンプによる前への移動、打つ前に後方へひかれていた右肩の打球動作による前へのせり出し、腕の回転による手先の前への移動が並行して行われていることが認識される。
 図7は、移動体の上に移動物が乗っている状況の模式図である。土台に乗った右へ移動する茶色の棒の上にピンクの回転棒がついており、さらにその先端に青の回転棒が乗っていると、左図のように、左側の棒の結合体の上部先端は、全体が同時に移動後の総先端移動量は各部の移動量の合計になる。難しい話ではない。サーブのインパクト瞬間動作に置き換える。選手はこの瞬間には前方へジャンプしているので胴体は前へ移動している。茶色棒に相当する。その胴体に乗った肩部については、後方へひかれていた右肩が投球動作により前へせり出して(ローテーション)いる。ピンクの回転棒に相当する。その肩に乗った右腕は選手後方から振り回すように回転し、手先が前へ移動しラケットを運んでいる。青回転棒が腕に相当するのがわかると思う。

             図7.移動体の上に乗る移動物の変位の状況
    
3-2.各動作の加速分の計測
 各動作の前に加速する成分について考える。

1)、前へのジャンプによる胴体の前進分
 図8のように、胴体の前進分はインパクト瞬間の映像とその1コマ前の映像を重ねてその差分を計る。手の動作を支える両肩の中心部が首元になっているので、首の移動距離を胴体の前進分として計測する。

            図8.ジャンプ前進分と肩ローテ分の計測
   
 2つのコマの間の所要時間は0.0333秒なので各部の移動速度を算出できる。首の移動量が計測では9.4cmであったので速度を計算すると10.2km/時となった。ラオリッチ選手はサーブ打撃時のジャンプによる加速分が10.2km/時であったことがわかった。

2)右肩が投球動作により前へせり出し(ローテーション)による加速分
 同じく、図8のスティック図を重ねたもので計測する。見える肩の移動距離を計測して、同様に移動距離を算出する。25.8km/時であった。肩部は首に乗っているので、この移動速度からジャンプによる加速分を差し引いたものが肩のローテーションによる加速分になる。ラオリッチ選手の肩の前せり出し(ローテ)による加速分は15.6km/時と測定された。

3)手の回転による加速分
 手の回転は、肩の関節を中心とした上腕の旋回、肘を中心にした手首のスナップ動作を利用したラケットの旋回の3つの動作が並行して行われる。
・上腕の旋回
 図9は、上腕と腕の旋回による加速分の計測法である。まず、図の左側のようにインパクト瞬間と1コマ前のスティック図の腕と肩の線を取り出す。図の最下段の様に、両スティック図を右肩の部分を合わせて重ねる。赤の補助線で示した上腕の回転角度を計測する。これがこの0.0333秒間の上腕の旋回角ということになる。18°であった。
・腕旋回角度
 図の右列中下上段に示すように、腕部を肘の位置で重ねるのであるが-0.0333秒前から上腕部か旋回しているので、腕の部分の旋回にはその分が加算されている。そのため全体を上腕旋回分だけ回転して重ねる必要がある。肘部を重ねて下段のように腕の旋回角を測定する。
 ラオリッチ選手の腕旋回角度は120°もあった。
・ラケット旋回角度
 全く同様に、図10のように腕を旋回角分だけ回転し、手首位置を重ねて、ラケットの旋回角を測定する。本来は手首の回転角を測定したいのだが、ラケットは必ずしも手首の回転だけでなく、握り方やグリップの調整で大きく変わるので、ラケットの旋回技術合計としてラケットの旋回角を直接計測した。旋回角度は55°であった。

          図9.上腕及び腕の旋回角の計測             図10.ラケット回転分の計測
  
4)0.0333秒間の旋回角度からの移動速度の計算
 旋回角度から加速分の速度の計算は、円周の周長を計算することで簡単に算出できる;
図11は、その考え方で、手先が肘からの探さRの半径で角度θ°だけ旋回した場合、手作の移動した円周長は2πR×θ/360となる。赤矢印である。これが0.0333秒間に変位したとして移動速度が算出されることになる。計算には図14の前提条件を使用した。
 ラケットについては、グリップ中央からインパクト位置までを推定値として60cm、肩から肘・肘からグリップまでの長さを計測値で43cmとした

    図11.旋回角から移動距離を算出        図12.算出のための前提条件
       
 図13の前提条件のもと計算された各部の旋回による加速分の計算値である。

     表2.手旋回による加速分の計算値



     表3.インパクト瞬間の5つの平行動作による加速状況

     

2-4.ラオリッチ選手の計測データ
 表3に、ラオリッチ選手のサーブ動作の加速状況の測定値を示した。各動作の加速状況を見てみと、肘の旋回とラケット旋回による加速分が80%近くを占めており、極めて偏っていることがわかる。個別にみてみる。

   1)足踏み出しによる胴体移動分の加速は、わずか5.1%しかない。本来ならば前進への
     大切な加速因子であると思われるが、重要性があまり考えられてないようである。
   2)肩のローテーションの影響も7%台で少ない。肩を十分後ろに引いて打つ瞬間に急に前
     にせり出すという動作もあまりやっていないようである。
   3)上腕部の旋回による影響も7%程度である。上腕を後ろにそらすのは体形的にも難しい
     ためであろうか。
   4)48.5%も占めているのが肘の旋回によるものである。ラオリッチ選手が、世界の他
     の選手より打球速が秀でているのは、この動作での加速が極めて大きいためであろう。
     腕の旋回技術は野球のピッチングや他の球技でのサーブ動作でも極めて重要なもので
     る。これについては後で詳しく解説する。
   5)ラケット旋回による加速は200km/時以上の打球速の31.3%も占めている。ラケ
     ットで打ってサーブを行うテニスでは重要な技術と言われている。ラオリッチ選手の世
     界トップ水準を位置づける重要な技術の1つであろう。ラケットの旋回は、手首の旋回、
     グリップのひねり、ラケットシャフトの握り方などの複合動作で行われる。個別性が高
     い技術で習熟度も違う。選手特有の重要技術といえる。


3.サーブの基本技術
 テニスサーブには、ボールのインパクト瞬間に5つの加速動作が並行して行われている。
 それぞれについて考えてみよう
  
3.1 ジャンプ加速
 世界トップレベルのラオリッチ選手でも、全加速200.4km/時のうちの5.1%にあたる10.2km/時分しか加速していない。テニスサーブの時のジャンプは高さ確保が主体になっており、前への加速が考えられていないためである。それがテニスの世界では常識のようである。しかし、野球のピッチングでは投球速度の4分の1を占めるという重要な動作である。高校野球程度の選手でもピッチングでは投球第一歩の踏み込みだけで30km/時もの加速している。バレーボールのサーブやバックアタックは、後ろから走ってきて打つことがなされるようになって、普通のサーブやアタックよりもはるかに速いボール速度を確保できるということがわかってきた。そのため、実戦で相手を翻弄することできるため非常に多く使われるようになった。
 テニスサーブで、コートの後ろ端から全力で走っていき、投げ上げたボールが落ちてきた瞬間高くジャンプして力強く打つというサーブはどうだろうか。テニスサーブのジャンプは改善の可能性が大きいと思われる。ラオリッチ選手でもあと20km/時くらいは打球速を伸ばせるかも知れない。

3.2 肩のローテーションによる加速分
 図13のように球を打つ準備として肩を後ろに引いて、インパクトと同時に肩を前に出すことにより、前向きの加速分を発生させる動作である。
肩の動作は強い筋肉で行われるため、前へのせり出しは力強く行うことができ、加速分も多くとれるものと思われる。事実、図14に示すように、長らくテニスを楽しんでいる市民選手はこのように動作するケースが多い。この選手は打球速が約100km/時であるが、計測によるとこの動作で22km/時も加速していた。もっと、高速サーブを実現するには、肩を後ろに引いてからインパクト動作に入ることを訓練すべきかも知れない。

        図13.肩のローテーション   図14.市民選手のインパクト動作
        

3.3 手の振り回し動作での加速
 手の振り回しで、ラケット移動を加速させるには、上腕の旋回と腕の旋回、手首を中心としたラケットの旋回の3つの動作が合成されて行われる。ここで重要なのは、可動範囲という概念である。旋回の速度を速くするということは、回転を大きく速く行うことである。速く行うのは訓練で筋力をつけることでできる。大きく旋回するということは、可動範囲が大きい回転をめいっぱい行うことで対応する。

                図15.手首、上腕、腕の可動範囲

 図15に示したように、旋回の可動範囲について考えると、手首はせいぜい90°しかないことになる。上腕は、旋回の可動範囲は大きいのだが、前に打球を打つには、手のひらも向きを考えてせいぜい45°位しかとれない。一方、腕の回転は、肘を中心にして180°以上の可動範囲を取ることができる。強力なサーブを打つ場合、この可動範囲をフルに全力で使うことになる。手首については、持たれているラケットまでは距離があるので、ある程度の可動距離を取ることができる。表3の3)、4)、5)の加速状況をみると旋回の可動範囲という概念からみて納得できると思う。野球のピッチングも同様の考え方ができ、160km/時を投げるピッチャーは腕の回転と手首のスナップを効かせることが常識である。
 図15の右側の腕のスケッチ図をみると、腕の可動範囲を大きくするには、打球直前に肘を高くする(ハイエルボウ)必要がある。図16の、実際にラオリッチ選手の映像では(インパクト2コマ前)肘が手のどこよりもの高くなっている。ちなみに、アメリカプロ野球で活躍しているO選手の映像(17年日本最終戦で162km/時の投球速度を出した時、球の手離れの2コマ前)でも、肘は高いポジションになっている。

            図16.ラオリッチ選手とO選手のハイエルボウ
      

4.錦織選手のサーブ
 図17は錦織選手のサーブ連続映像である。 映像は、ネットの錦織選手練習風景のビデオ映像からとった。

                 図17.錦織選手のサーブ連続映像
   
錦織選手もハイエルボウ姿勢から打つ動作に入っている。しかし、それはインパクトの0.1秒(4コマ)も前である。右から1コマ目を見ると腕の旋回は、インパクトの1コマ前に終わってしまっている。図18のインパクトの瞬間と1コマ前の手とラケットの状況を見てみるとよくわかる。

                 図18.手とラケットの旋回の状況
      

左側の1コマ前のスティック図から上腕と腕部を取り出して、インパクト瞬間のものと肘の部分で重ねようとすると、腕はほとんど旋回していない。もう旋回加速は終わってしまっている。これでは、打球速は稼げない。一方図の右側のように、2つのコマ映像からラケット部を取り出してグリップの位置で重ねてみると赤線のようにラケットが大きく旋回して中央部が移動していることがわかる。右斜め後ろからの撮影なので、その分を考慮して赤線の長さを身長基準で計算すると、58.3cmであった。これがラケットが0.033秒間に移動した量なので、実際の加速分に変換すると63.0km/時となる。真横からの映像でないので、正確には計算できないのであるが、表3のラオリッチ選手のラケット旋回による加速が62.9km/時であったので、ラケット旋回の加速分は錦織選手もほぼ同じと言える。つまり、錦織選手は、ラケットの旋回技術も手首の強さもラオリッチ選手と同等で世界のトップ水準と言える。しかし、彼のサーブは最も加速力のある腕の旋回を有効に使っていない。インパクトの瞬間には腕の旋回がもう終わってしまっている。もちろん腕の旋回での加速分は惰性としてラケットを含めた手の移動として残っているのだと思われるが、ボールとのインパクトに大きな力を与えるには肘の旋回で加速している最中の加速分とは大きく違うであろう。さらに、図19を見ると、ハイエルボウ状態の腕の旋回開始から旋回終了までは-0.1秒から-0.033秒と2コマかかっている。ラオリッチ選手は1コマで行っているので、加速分は半分しかない。これは決定的な弱点である。錦織選手が世界トップになれない理由の1つがここにあると思われる。

4.錦織選手のサーブ技術への考察
 錦織選手のサーブでは、腕の旋回での加速をインパクトに反映させることが、打球速向上の大きなポイントであることがわかった。2つの方法が考えられる。1つは、図17のインパクト1つ前のコマの時、もうボールがラケットの位置まで落ちてきてしまうようする。こうすると、これに合わせて打つ動作が行われるので、まだ腕の旋回加速が最終段階であり、有効に使える。腕の旋回による加速の最終段階に打つのが重要なのである。図19のようにインパクト1コマ前からインパクトまで手首は12cm進んでいるのが計測される。そこで、サーブ時のボールの放り上げの位置を今より12~5cmほど後方にする。これで、都合のいいインパクト位置にボールが落ちてきて、動作のタイミングは今まで通りなら、そこで打てば腕の旋回での加速が行われる。タイミングやインパクト時の姿勢など変わってしまうので、相当訓練しなくてはならないであろうが、大きな効果が期待される。

        図19.手首の移動幅         図20.武器「ヌンチャク」
              

 もう1つは、彼の腕の旋回速度の向上である。錦織選手は、腕の旋回に2コマ要している。多分ここでの加速は、手の長さも小さいので、ラオリッチ選手の半分以下であろう。旋回速度を上げることが必要である。
 例は悪いが、ヌンチャクという武器がある。アジア系の暴力チンピラが振り回している武器である。図20に、武器としての破壊力を示した。ヌンチャクは2~30cm程の金属製のバーを蝶番で繋いだものである。握りバーを持って振り下ろすと、握りバーの振りの最終段階の止まりかかった時に攻撃バーが急速旋回して相手に衝突する。攻撃バーは、振り下ろしの速度に加えて、旋回の加速を受けて衝撃力を増して強力に激突する。単独バーでの打撃より、旋回加速が加わって大きな衝撃力となる。握りバーの最終段階に持つ手を上に上げるか手前に引くとさらに攻撃バーの旋回が速くなり激突力が増す。ヌンチャクの破壊力増大のブラックテクニックである。

                  図21.ヌンチャクとサーブ肘旋回
       
 図21は、そのヌンチャクと同じ構造でサーブの腕回転が実行されることを示したものである。ヌンチャクは、振り下ろしの最終段階の手の動きの減速で、攻撃バーが旋回を始めると、短時間旋回になるので、旋回による加速力が増大する。腕がヌンチャクの攻撃バーとなる。サーブのインパクト時にも、腕の旋回を短時間に行うことが効果的である。錦織選手のように腕の旋回が2コマかかっていると効率が悪いと思われる。腕旋回を短時間で行うには、可動範囲を大きくするため肘をたかくした姿勢から、上腕の旋回に応じてインパクト直前まで腕の旋回を我慢することがたいせつである。ヌンチャクのようにインパクトの直前で肘を下げて(肘で下方に引っ張るように)旋回速度を上げる工夫も必要である。
 実現するには、タイミングや動作そのものが大きく異なるので、繰り返し訓練で習熟するように努力することが大切である

5.終わりに
 テニスのサーブは、相手に関係なく自由に打ち込めるので、非常に重要な武器である。サービスエイスが取れると相手と戦うことなしにポイントを取れる。サーブを相手が上手に受けると、そのあと相手の球を必死で走って受け打ち返すというラリーを繰り返し、相手のミスを誘ってポイントにするという重労働をしなくてはならない。
 テニスの試合はサーブで始まる。サービスエイスを取るというのがテニスの第一歩なのだ。サービスエイスは体力的には球を打つだけなので、相手の球を追って走り回る運動に比べて格段にエネルギー消費が少ない。テニスの試合時間は、何時間にも及ぶことが多い。4~5時間もかかることもある。最終的には体力勝負になる要素も多い。サービスエイスは極めてポイントを取るための省エネ武器である。さらにサーブを打つ場合、相手の到達許容範囲ギリギリを攻めることができれば、例えサービスエイスにならなくとも、相手は限界近くまで走って体力を消費させることになる。長丁場の試合で、サーブ技術の上手・下手の差が勝負を決めると言っていいほどである。
 「サービスエイスを狙う」ことが最重要な戦略なのである。