情報コード  DTS1
情報登録日  2019/06/20
情報作成者  河井正治

4.テニス 1.サーブ技術 その1 基礎的知識

・・・・サーブの基礎知識・・・・

1.はじめに
 テニスは相手コートサーブと称して球を打ち込むことから競技が開始される。サーブは相手に惑わされることなく自分自身の技量で球を打てるので極めて重要な攻撃手段となる。テニスサーブでは、速い球を打つことや、敵の取りにくいコースへ打つことがいいとされている。テニスサーブの打球速の世界トップ水準は、男子選手の場合200km/時を超える高速を出している。例えば野球の場合、打球速はホームラン級で120km/時以上、ピッチャーの投球速は世界トップ水準で160km/時台であると言われている。テニスサーブの打球速がいかにすごいかがわかる。この高速打球は選手のラケット振り動作で生まれる。実際の解析で、打球速は打つラケットの移動速度とほぼ同じ程度というデータが出ている。ラケットに貼られたガットの伸び縮みによる加速はあまりないようである。ということは球にヒットする瞬間のラケットの移動速度が打球速を決めると考えていい。いかに速いサーブを打つかは動作のテクニックで決まる。この打球テクニックの本質を解説する前に、まず競技コートの幾何学的構造や物理的(落下)法則による基礎的な知識について考えてみる。

2.テニスコートの形態
 図1は、競技ルールで決められたテニスコートの幾何学的寸法形態である。試合は、右側に示した選手がサーブを打って始まる。コートの長さは23.77m、幅はシングル種目で8.23m、サービスエリアの長さは6.40mと決められている。ネットの高さは中央部で0.914mである。


             図1.テニスコートの幾何学的形態

 打ったサーブは打った選手が立っている反対側のサービスエリアにワンバウンドしなくてはならない。ネットの高さが邪魔するので、サーブを打つ選手はサービスエリア内にワンバウンドさせるのは大変だと感じてしまう、事実、サービスエリアの境界線位置(サービスライン)からネットの0.914mの高さの上端を結ぶ線をサーブ打選手の位置まで延長すると約2.6mの高さになる。これが幾何学的打撃可能高さである。これより低いところでネットにかからないように打つと、相手サービスラインより手前でボールをワンバウンドさせることはできない。しかし、これはあくまでも幾何学的な可能高さなのである。

               図2.サービスラインは見えない

 さらに、身長170cmの選手を仮定すると目の高さは155cm位なので、到底サービスエリア境界線(サービスライン)はネットに隠れて見えない。サービスエリアにワンバウンドさせて打つのは大変と感じてもしょうがない。見えないことに加えて、幾何学的に不可能ということで、市民選手やベテランの選手などは通常実現するのが大変困難な技術であると考えられている。

3.縦回転をかけてサーブを打つ
 図3は、ボールが自身の回転により進行方向が曲がっていく原理である。


        図3.ボールの曲がりの原理          図4.曲がるボールを打つ

 空気中をボールが回転しながら飛んでいくと、流体特性としてボールに接触している空気は引きずられて移動してしまう。ボールは進行しているので空気の流れが進行物体に当たってくる。図のボールの上部は引きずられた空気と進行により当たる空気の流れが反対方向になり、相殺されてそのあたりの空気速度は低下してしまう。一方下の部分は引き摺られ方向もボールに当たる水流方向も同じなので、合算されて大変高速度になる。物理学には「高速度に流れる流体のあたりは圧力が低下する」という定理(ベルヌーイの法則)がある。そのため、図のボールの下部は圧力が低下することになる。当然ボールは低気圧側へ曲がって進むことになる。
 図4の上段のように、サーブのためにボールに縦回転をかけるということは、ボールに前方が下向きになるような方向(図では左回転)が必要である、打球ボールに回転を付けるには図4の下段のようにインパクト瞬間にラケットを移動させて行う。卓球でもそうであるがボールを「切る」という技術である。そこで図を見ながら考えて見て欲しい。ボールを回転させるに、インパクト瞬間に「切る」動作で、ラケットを左右や下に動かすのは、訓練が必要だがなんとかできるように感じられる。しかし、サーブの際に球を縦に回転させるにはラケットを瞬間的に上へ移動させなければならない。たぶん人間の動作では中々容易ではないと思われる。十分に練習と経験を積んだトッププロはおそらく上手にこなしているものと思われるが普通では大変である。世界のトッププロの放送映像や、ある大学テニス部、テニスを楽しむ市民選手などを解析してみると、ほとんどの場合は単に物理的落下の法則に従っているようと考えられる。

4.落下によるサーブ
 ニュートンの法則で、空中に放たれたボールは落下する。図5の上段①図にその様子を示した。ボールを水平にまっすぐ打つとピンク線のようにボールは刻々と落下する。ネットを超えて相手コートのエンドラインに到達するまでにはかなりの量で落下する。落下の量はサーブの打球速により相手エンドラインまでのボールの到達時間が違うので差が生じる。打球速が早いほど到達時間が早いので、落下量は少ない。


                  図5.打たれたボールの落下

          表1.重力による自然落下の量


 表1に、打球速による落下量の違いを示した。一番左の「時速」の項はサーブの打急速である。それを秒速で表したのが2番目の「秒速」の項である。打たれてからボールがネットの位置まで進んだ時の落下の量が「球落下ネット」の項で、サービスエリア境界線(サービスライン:SALと略す)まで進んだ時の落下量が「球落下SAL」の項である。表をみると、サーブ打球速100km/時の場合(大学選手や市民選手の速いほう)でネットのところで40cm、相手SALでは94cmと思ったより大きい。これでは目視的に大きな「ドライブ」がかかった(他の球技ではよく使われる言葉、落ちる球という意味、野球ではドロップという)打球と感じてしまう。世界のトップレベルの200km/時の打球でも球が早いので到達時間が少なく落下量も少ないのであるが、ネット位置で22cm、SAL位置で53cmも落下している。重力の落下は大きいのである。
 図5の②図のように、ネットギリギリに通過するように打つと、落下のおかげでSALより大分手前で球はワンバウンドしてくれる。相手のサービスエリア内に入れることが出できてこのサーブはセーフとなる。余裕があるので図の③のように、ボールがSALギリギリのなるように少し上向きに打つことができる。重力落下のメリットである。ネットギリギリとSALギリギリに打つ場合のネット真上のボール通過する高さの差が余裕範囲となる。
 表からみるとサーブ打球が遅いほど落下位置を手前にすることができ、余裕範囲が広まり、サービスエリア内に入れるサーブを打つことが容易になる。重力落下の影響は市民選手にとってありがたいことであるといえる。


                図6.サーブで余裕範囲を狙う

 図6は、サーブ打撃時の狙いを定めて打つというスケッチ図である。ピンクの範囲が狙いである。左右の制限は、図1の青の点線で示された相手サービスエリア幅で生じるものである。ネットから上の余裕範囲がボールの重力落下生じたものである。この範囲の間にボールを通すと相手サービスアリア内にボールを落とすことができる。左右の範囲は2.4mで余裕があるが、ネットの上の許容範囲を通すのは大変である。打球速が遅い場合はネットの上方向の余裕範囲の幅が広がり、打撃は容易になる。打球速が早いとこの範囲にボールを通すのが厳しくなってくる。150km/時では幅が54cmもあったのが、200km/時では31cmになってしまう。12mも遠くにあるネットの上の高さ方向で31cm以内にボールを通さないといけない。ボールの径は6.5cmくらいである。とすると差し引き24.5cm以内に収めなくてはならなくなる。ラオリッチ選手のように230km/時を出す選手は16.5cm以内を通さなくてはならない。極めて大変な習熟訓練を行っているものと思う。

5.サーブにジャンプを入れる
図7は、サーブ打撃の場合、ラケットにボールが当たる位置の高さを示したものである。

                  図7.サーブ打撃点の高さ

 身長170cmの場合、挙手高(手をまっすぐ上にあげた時の手の先端の高さ)は一般的に身長の6~70cmプラスと言われている。手を精一杯高くしてサーブを打つ場合、ラケットを持つグリップは身長から50cm位上で、グリップからラケットの球当中心までは60cmくらいなので、打撃点の高さは地上から280cm位になる。前述したように幾何学的な打撃可能高さは2.6mなのでそのまま打っても問題なく打球が相手サービスエリア入る。現実のゲームでは問題なく行われている。当然、身長が高いほど、打撃時にラケットを高く持ち上げるほど、サーブをSALより手前にワンバウンドさせることが容易になる。当たり前のことである。



               図8.ジャンプによる余裕範囲の変化

 「打撃点を高くするとサーブが入りやすくなる」と考えて、サーブの際にジャンプするという考え方が出てきた。現在では特に高速サーブを打つためには必要技術と考えられている。図8はサーブ打撃時にジャンプした場合、ジャンプの高さに応じてそのための余裕範囲がどう変わるか算出したものである。ジャンプの高さによって幾何学的打撃可能高さがどう変わったかを単純に比例計算した。
 表1によるとサーブ打球速度が150km/時の選手の場合、ジャンプなしでは余裕範囲が54cmであった。仮に30cmジャンプすると、その分が加えられるので、範囲が64.5cmと広くなることがわかる。大したことはないと思うかもしれないが、高速サーブのときには大きく得をすることになる。230km/時のサーブ打球を誇るラオリッチ選手の場合、試合のビデオ計測によるとジャンプは40cmの跳んでいる。図8の表によると余裕簡易の加算は14cmである。表1によると彼の打球速では23cmの余裕範囲であったが、ジャンプによる加算で37.5cmになる。ボールの幅を考えると、実質余裕範囲は、16.5cmから31cmになった。倍の幅になるのである。
 このように高速サーブでは、サーブセーフの確率を上げるため、サーブ打撃時のジャンプは必須事項なのである。 ちなみに錦織選手のジャンプは10cmである。打球速は170km/時くらいであろうか。

6.打撃前の球放りあげ(トス)の効果
 トップ選手のテニスサーブにおいては、一度球を空中に放り上げて、落ちてきたところをオーバーハンドで力一杯打撃するのが一般的である。 図8は「サーブ守備その3」の再表示で、2012年ジャパンオープンで日本トップの錦織選手からサービスエイスを取った時のベルティヒ選手の球放り上げ(トス)で、球が最高点になった時の映像である。

               図7.サーブ打撃前の球放り上げ

 放り上げられた球は最高点が約5.1mであった。図9は、彼のサーブ打撃の球放り上げから打撃までの一連動作のスケッチ図である。左から球を放り上げて、相手コートに力一杯打ち込む動作がわかると思う。放り上げで最高点5.1mに達した球は、1m落下に0,45秒かかり、打撃点の高さ3.3mまでの落下に0.58秒ほどかかった。ベルティヒ選手の身長は185cmほどであり、この時打撃時に45cmほどジャンプした。最高点から打撃瞬間まで0.58秒ほどかかったことになる。     


             図8.サーブ打撃の球放り上げから打撃までの一連動作

 なぜトップ選手はサーブ打撃の球を高く放りあげるのだろうか。
 球を高く放りあげると、打撃点の高さまで球が落ちてきたところを狙って打撃する。球は最高点から打撃高さまで落下する。当然落下球は重力によって加速される。インパクトの高さはこの例で3.3mであった。図9は、ラケットによる球のインパクトの瞬間とその後の様子のスケッチ図である。      


              図9・サーブ打撃のボールインパクト

 インパクト瞬間のボールは重力加速によって下へ加速中である。そこへラケット打撃によって横へ吹っ飛ばされることになる。しかしラケットは横向きに打撃を与えたのであって球の落下を制止したわけではない。球は打撃後横へ飛んでいくが、重力による可読は依然として続き落下は継続される。落下速度はすでに1.7m分落下加速されているので、大きくなっている。サーブ打撃により飛翔してネット通過時においてもSAL到達時でもトスなしでの打撃よりはるかに落下速度が速いことになる。
 ネット通過時とSAL到達時の落下距離の差が余裕範囲であった。表2は、トスなし(打点高さ3.3m)、放りあげ4m、放りあげ5mの時の余裕範囲を打球速ごとに計算したものである。右側の項が保有範囲である。

       表2.放りあげ高さによる余裕範囲の差


 前に打球速が速くなると余裕が少なくなって、相手のサービスエリアに撃ち込むのが難しくなると解説した。表2によると打撃速度が200km/時の場合、トスなしでは余裕範囲が31cmしかない。豪速球サーブ打球をネット上31cm幅以内に通さなくてはならないのである。厳しいテクニックが求められる。しかし、4mの高さまで放りあげると幅が81cmになる。5mまで放りあげると98cmにもなる。豪速球打球でも相手サービスエリアに打ち込むのに打球の高さ方向の制限が極めて小さくなる。
 サーブ時のトス放りあげを高くするにはこんな秘密があったのである。多分これは長い経験から出てきたテクニックなのであろう。

7.終わりに
 テニスのサーブは、相手に関係なく自由に打ち込めるので、非常に重要な武器である。サービスエイスが取れると相手と戦うことなしにポイントを取れる。サーブを相手が上手に受けると、そのあと相手の球を必死で走って受け打ち返すというラリーを繰り返し、相手のミスを誘ってポイントにするという重労働をしなくてはならない。
 テニスの試合はサーブで始まる。サービスエイスを取るというのがテニスの第一歩なのだ。サービスエイスは体力的には球を打つだけなので、相手の球を追って走り回る運動に比べて格段にエネルギー消費が少ない。テニスの試合時間は、何時間にも及ぶことが多い。4~5時間もかかることもある。最終的には体力勝負になる要素も多い。サービスエイスは極めてポイントを取るための重要な省エネ武器である。さらにサーブを打つ場合、相手の到達許容範囲ギリギリを攻めることができれば、例えサービスエイスにならなくとも、相手は限界近くまで走って体力を消費させることになる。長丁場の試合で、サーブ技術の上手・下手の差が勝負を決めると言っていいほどである。「サービスエイスを狙う」ことが最重要な戦略なのである。
 その2ではそのサービスエイスを狙う剛速球サーブの打撃法を解説する。

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