情報コード  Dz22
情報登録日  2019/06/19
情報作成者  河井正治

Ⅰ.各種のスポーツに共通する科学 その2(急発的動作開始2)

・・・・素晴らしい動的反射能力の活用・・・・

6.「動的反射能」
 競技スポーツの中で、ルール上スタート時の静止姿勢を取ることが求められているのは、競泳の他に陸上のトラック競技・スピードスケートなどの距離を定めての速さを競う競技である。スタート時点で静止状態を求められて当然である。
 しかしそれ以外の競技では必ずしも静止をする必要がない。ルール上制限が無い場合がほとんどである。「急発的動作開始」で静止をしなくていい場合を考えてみると、野球の打撃守備、テニス等球技のサーブ受け、サッカーのキーパー、格闘技の技掛け開始・技受け開始、などと多岐にわたっている。場合によっては勝負を決める局面であることも多い。これらにも「急発的動作開始」時の反動対応は極めて重要である。「急発的動作開始」時に静止をしなくてもいい場合の「反動問題」対応には、神がくれた我々人間の素晴らしい「動的反射能力」の活用という展開がある。
 人間の「急発的動作開始」時の反応状態は、そのときの身体状況が静止しているか・動作中であるかで大きく異なる。このことを体感するための実験をしてみよう。

               図12.手の急移動実験

 先ず図12の左側の①のようにペットボトルを右手で持って前につき出してみる。②のように、急に力いっぱい右に振ってみる。腕や手、肩に大きな負担を感じると思う。数回やってこの負担をおぼえていただきたい。次に図12の右側のようにペットボトルを持ったまま、手を頭上に持ち上げてみる。その手を上からゆっくり下ろしてきて、①のように自分の真正面の高さになったら、さっきと同じように一気に力いっぱい右に振ってみる。腕や手、肩の負担はどうだろう。随分小さく感じたと思う。数回やって確認をしてみてほしい。
 ペットボトルを急に右へ動かす図12の左側の動作は正に「急発的動作開始」状況である。右側はゆっくりした動作からの方向転換である。腕や肩にかかる負担が大きく違うことがわかった。このことが意味するのは、人間の「急発的動作開始」状況では、静止からスタートすると、大きな負担が身体にかかるということである。
 図13は、急発的移動開始時に身体の移動速度の上昇(加速)状況を示した模式図である。「急発的動作開始」状況では、静止から急スタートすると、重い身体が最初は徐々に動き始めて、ある程度の体制になると一気に要求移動速度へと加速される。図の赤点線の部分はスタートから緩慢に少しずつ動くので「隠れ反動時間」と呼ぶ。急発的動作開始ではこの「隠れ反動時間」が必ず生じてしまう。それには0.2秒ほどかかるようである。大きな身体を急に最高移動速度に上げるには、慣性モーメントの関係で大きなエネルギーを要する。特に静止状態から移動状態に移る移動開始時に大きなエネルギーを要するために起きる自然的現象である。例えば電車のスタートでも進行開始時の瞬間に大きなパワーが必要なのは常識である。身体活動でも移動開始時は同様である。動き始めれば所要速度までは0.1秒で達する。そこで静止状態から適正な移動速度を得る状態まで合計で0.3秒も時間を要することになる。

 

            図13.急発的移動開始時の速度変位

     

           図14.走行スタートと方向転換方向転換

 図14は、走行の場合の静止スタートと方向転換との違いを説明したものである。上段の図の静止からのスタート時は、先ず脳からの指示から生体クロックのために0.1秒後に身体が動き始める。走行状態を開始しようとするが、静止状態から隠れ反動時間と加速時間とで走行状態に移行するのに0.3秒を要することになる。脳から走行開始の指示を受けた後に合計で0.4秒かかることになる。図にはないのだが、その前に号砲スタート時の脳がピストル音の認識からスタート指示を出すまで0.1秒を要するので、スタート合図から通常走行状態になるまで合計で0.5秒かかることになる。
 図の下段の方向転換の場合は、すでに走行状態になっているので、脳からの指示による方向転換実行は人間の生体運用クロックの0.1秒後に行われることになる。号砲からの所要時間は、静止構え状態から0.3秒も速く実行できるのである。
 サバンナでの動物活動状況を伝える放送で、ライオンやチータ等の肉食獣の狩りで獲物のガゼルなどを全力で追っている映像を思い出して欲しい。必死に走って逃げるガゼルが一瞬右に左に方向転換して追跡をかわしている状況を覚えているだろうか。これが瞬時の方向転換である。同じ動作の継続という状況では、方向が違うだけとなり、0.1秒で方向転換ができるのである。地球上で長いあいだ弱肉強食の野生で暮らしてきた動物に生きるために神が与えてくれた能力なのである。もちろん人間にも備えられている。我々はこれを「動的反射能」と呼ぶことにした。
 180°反対方向の場合のように大きな方向転換では、一度速度がゼロ近くなるので図14の上段に近い同じ状態となる。そういった意味では方向転換の大きさによって短くなる時間が異なることになるが、前述のガゼルの逃げ方向から考えてみても90°程度の方向転換では所要時間がさほど大きくならないようである。

7.「動的反射能」の内野守備への活用!
 図15は、野球内守備の状況の模式図である。

              図15.「動的反射能」を活用した守備

上段のように通常では内野手は相手が打つ瞬間まで静止状態で構えて待つ。相手打撃を目視し球追い動作開始までは0.2秒かかり、その後は静止状態からの「急発的動作開始」では、隠れ反動時間と加速時間のため約0.3秒の時間を要する。結局、相手の打撃瞬間の目視から捕球体制完備まで0.5秒要する。同時並行的に(自立分散処理)に捕球姿勢確保が同時進行的に行われる。捕球姿勢確保の所要時間は0.2秒くらいである。球追い動作の移動速度は何人かの選手の平均で約8m/秒位が計測されている。「動的反射能」では方向転換だけで済む。図15の下段のように、相手打撃瞬間にすでに球追い動作速度になっていれば、その後の動作は方向転換だけということになる。
 つまり、相手打者の打撃前に前の方に移動を開始して、球追い動作速度になったころ目視で打撃方向を確認、方向転換と捕球姿勢確保動作が並行して行われるので捕球体制完備へは0.2秒しかかからないことになる。守備余裕時間が0.3秒も多くなるのである。0.3秒を守備の時の最高の移動速度で球追いをすると2.4mも移動できる、守備範囲が両側で4.8mも増えることになる。詳しくは野球守備の項を参照いただきたい。
効率アップの工夫として、打撃前の前進分として、あらかじめ守備位置を1~2m後ろにしておくことが必要だと思われる。
 プロ野球選手のジャストミート打球の速度は120㎞/時を越すと言われている。この毒度ならば内野手の守備位置には0.9秒で到達する。「動的反射能」活用の場合は捕球位置移動開始時間が0.3秒なので、守備余裕時間は0.6秒になる。この間に選手が球追いで移動できる距離は左右とも4.8mで合計は9.6mとなる。   

          図16.移動しない場合の守備範囲

 図16は、選手の移動なしの守備範囲で、個人差があるが私個人の計測値である。移動可能距離とこの分を足して守備範囲は11.1mとなる。内野手の必要守備範囲は塁間距離の半分なので13.7mであるからこれを合わせると守備カバー率が82%と向上なる。プロのトップレベルの強打者相手でも、内野ゴロのヒット率を18%程度に抑えられることになる。相手打球速が90㎞/時100㎞/時では「動的反射能」を活用でカバー率が100%となり、打者にとって内野ゴロでヒットにするにはなかなか難しい状況が作れるということである。 この詳細は野球守備の項を参照していただきたい。

8.「動的反射能」を最大限活用する!
 内野手の守備範囲を広げるには「動的反射能」を活用するのに大きな効果があることがわかった。相手打撃をじっくりと構えて待つのではなく、早めに動き出して方向転換だけで球に追いつくということである。どのくらい早めに動き出すかは、多分選手によって違うと思われるが、相手打撃の瞬間にはもう動いていることが重要である。これこそ繰り返し練習で最適タイミングを掴む必要がある。脳の訓練ルートを作るのだ。
 テニスのサーブ受けでも極めて重要なテクニックである。テニスの一流選手ではサーブの打球速は200㎞/時を越える。サーブ打撃の瞬間から受け手選手までに球が届く時間は0.5秒弱である。静止構えでの捕球では人間の特性としての「急発的動作開始」動作なので守備体制確保までには0.5秒かかる。捕球動作体制が出来る前にもう玉は来てしまっている。受け手選手は不完全な体制では球を打つことになる。テレビ中継のトップ選手の試合では、相手選手のサーブの捕球がぎごちなくやっと球に触っている状況をよく見かける。
 「動的反射能」を活用しての捕球体制確保までは0.3秒で行える。0.1秒の余裕ができる。200㎞/時の速度は秒速で55.6mに速さである。0.1秒の余裕は捕球体制確保したときはまだ5.5m手前にあることになる。十分な余裕ができるであろう。
 往年の名選手伊達公子選手のサーブ受けは「動的反射能」を活用していた。彼女は相手選手のサーブ打撃の瞬間に合わせてピョンと一歩を前に踏み出していた。ちゃんと球受けテクニックを実践していたのである。すごいと思った。
 柔道などの格闘技で技掛けを考えてみる。図14の走り出すことを技掛けと置き換えて考える。静止構え型で技掛けをすると脳からの指示で0.1秒後には技掛け動作が始まり0.3秒後に技掛け体制が完備され技掛けが実行される。
 相手受け側は肌で敵の動作開始を感じた後、技回避動作を開始するまでは0.2秒を要する。静止型で対応すると技回避姿勢完備はさらに0.3秒後なので間に合わず技に掛かってしまう。 しかし、受け側が「動的反射能」で対応すると、技回避姿勢には0.1秒しかかからないので技掛け側の技掛け姿勢完備時には技回避姿勢ができてしまう。技は掛からないことになる。
 技掛け側が「動的反射能」で技掛けをすると相手はどうやっても間に合わないので技にかかってしまう。
 格闘技の種目でも「動的反射能」活用は重要テクニックなのである。

9.まとめ
 あらゆるスポーツ種目で必ず遭遇する「急発的動作開始」は、勝敗を決める局面の場合が多い。重要なテクニックである。
 人間は急激な身体動作を開始する場合必ず「反動」動作を行う。「反動」動作には、頭を振るとか沈み込むなどの眼に見える場合と、筋肉や関節などの内部準備だけの隠れ「反動」動作とがある。いずれも経験的には0.2秒前後である。これは性別や個人差などで違いがありあくまでも平均的な数値と思っていただきたい。「急発的動作開始」ではこの「反動」による時間ロスは避けて通れないものである。これにどう対応するかが勝負を決める大きな要素となる。これにどう対応するかが極めて大切な問題でありこれを「反動問題」と称する。
 「急発的動作開始」時に静止姿勢(構え姿勢)を取っていると、動作にかかわる多くの筋肉のうち必ず身体のどこかの筋肉が伸びた状態になっている。「急発的動作開始」時には、大げさな動きはないが、体内では必ず急発的な動作に備えた小規模な筋肉の収縮が行われる。「反動動作」と同様な急発準備の作業が行われることになる。動作をともなわない反動を「隠れ反動」という。そこで、静止状態から急発的に身体を動かす場合必ず「反動」動作が行われると考えられている。
 陸上のトラック競技・競泳・スピードスケートなど、「急発的動作開始」時に静止姿勢(構え姿勢)を ルール上定められている競技種目では、「反動問題」の対応として反動動作中の沈み込み時の姿勢(タメ姿勢と呼ぶ)で静止する方法を取る。これは、急発的動作開始」時に必要な筋肉を収縮状態にして号砲一発バネが弾けるように一斉に筋肉を伸展させるという方法である。これで急発動作準備の筋肉収縮工程がなくなり、反動ロスを避けることができるという優れた方法である。競泳のスタート時の計測で反動ロスに相当する0.2秒の短縮が計測されている。水泳の項の「スタートリアクションタイム」を参照いただきたい。
 「急発的動作開始」で静止をしなくていい場合を考えてみると、野球の打撃守備、テニス等球技のサーブ受け、サッカーのキーパー、格闘技の技掛け開始・技受け開始、などと多岐にわたり、それが勝負を決める局面であることも多い。これらには「急発的動作開始」時の「動的反射能力」活用は極めて重要である。つまり、「急発的動作開始」時に静止をしなくてもいい場合の「反動問題」対応は「動的反射能力」の活用という展開が極めて重要である。
 静止状態からの「急発的動作開始」では人間は動作実施の体制を完備するには「反動」のため0.5秒を要する。しかしすでに動いている動作の方向変換では「反動」の必要性がなく0.3秒で体制を作れる。これを「動的反射能」という。これの活用は、相手の打撃などの動作開始の局面が行われる前に動作を開始して、捕球などの必要動作は方向転換だけで「反動」なしで望むというほうほうで行われる。静止構えの場合から「反動」無しなので0.2秒もロスを小さくできる。優れた方法である。
 スポーツに不可欠な「反動問題」、その対応に「タメ姿勢」静止、「動的反射能」活用。
 この重要なテクニックを科学的に捉えてみよう。