情報コード  DSB2
情報登録日  2020/03/22
情報作成者  河井正治

3.平泳ぎのインテリジェンス

2.「進行停止問題」

・・・・平泳は一度進行が止まる!・・・・

 

1.上手に平泳ぎを泳ぐ
 平泳ぎの加速手段は手の「かき」と足の「きっく」である。平泳ぎの重要な基幹技術である。しかし、もう1つ重要なのが「進行停止問題」である。これについては日本が世界最高水準であるといえる。
上手に平泳ぎを泳ぐ科学について、ここでは「進行停止問題」の対応技術について解説する。

2.平泳ぎの宿命、進行停止
 平泳ぎでは1ストローク中に、一瞬「進行が停止する」のである。平泳ぎの宿命である。
 進行停止は水流中の足の逆行が進行停止を生じさせるということであった。足引き動作はキックのための必要動作である。進行停止は必ず起こる。これは平泳ぎの宿命である。タイムアップにはこの進行停止という課題を上手に乗り越えてなくてはならない。
進行停止時間はレースタイムの8%にも達しており、足の引き方の工夫しだいで、大きなタイム差が生じてしまう。前回の解説で、進行停止時間を短くすることが平泳ぎを速く泳ぐための重大項目であることを述べた。停止時間が百分の1秒短くなるということは、100ストローク近く行う200mのレースでは、総タイムの1秒短縮という大きな結果をもたらすほどのことなのである。すなわち、停止時間を小さくするという問題は、平泳ぎでの世界の戦いで最も重要なテーマなのだ。

3.進行停止問題の対応策
進行停止時間はレースタイムの8%にも達しており、足の引き方の工夫しだいで、大きなタイム差が生じてしまう。前回の解説で、進行停止時間を短くすることが平泳ぎを速く泳ぐための重大項目であることを述べた。停止時間が百分の1秒短くなるということは、100ストローク近く行う200mのレースでは、総タイムの1秒短縮という大きな結果をもたらすほどのことなのである。すなわち、停止時間を小さくするという問題は、平泳ぎでの世界の戦いで最も重要なテーマなのだ。
 進行停止は足引き時のかかとやふくらはぎの逆行動作が原因であったので、このときの水流抵抗をうまく避ける「抵抗回避技術」がポイントとなる。我々は、「進行停止問題」という言葉で、平泳ぎを速く泳ぐための最重要課題として取り上げた。これが今や日本の平泳ぎ技術を世界最高水準にのし上げたのである。ポピュリズム的考え方からいうと、これから解説する内容は、日本の水泳界にとってトップシークレットなのかも知れない。
 平泳ぎのタイムアップには足の逆行動作の抵抗を回避して「進行停止時間」を短くすることが最重要課題である。 調べてみると、歴史的に世界中で極めて巧みに実践されていた。プールサイドでウォッチを持って泳ぎ時間を計ることをただ単に繰り返し行うでではなく、抵抗回避の方法を考えそれの実現のための修熟練習に励むことが重要なのであった。どうやって抵抗を排除するか、正に頭の使い方の問題である。
「進行停止問題」の対応策として、現在認識されているのは4つのパターンである。 
項目を挙げてみると、
1. かかとを腰の幅の内へ。
2. 浅く引く。
3. 速く引く。
4. ストロークを少なくする。
が考えられている。 これらの技術は世界の平泳ぎの歴史で燦然と輝いた名選手達がそれぞれの個性で編み出したものである。
 例えば1972年のミュンヘンオリンピックの100m平泳ぎ決勝で、当時の世界記録を大幅に更新して金メダルに輝いた田口信教選手は1.の「かかとを腰の幅の内へ」のキックで見事に栄冠を獲得した。本人は「田口キック」と命名している。戦後の日本の平泳ぎで歴史に残る大記録を達成したのは、田口選手のほかに林亨(あきら)選手、北島康介選手が挙げられる。田口選手は100mレースで当時の1分6秒台であった世界記録を、一気に1分4秒台に上げての画期的世界記録であった。林亨選手は1分3秒台の日本記録を一挙に1分1秒台に押し上げた。この時は世界記録が1分0秒台だったので歴史的には目立たなかったが、記録を出した当時はすごいタイムと皆が感心した。
 北島選手の活躍には素晴らしいものであった。実は、北島選手は2.の「浅く引く」と4.の「ストロークを少なくする」のコンビネーションで栄光を掴んだのである。リオでの金藤選手の活躍は、4.の「ストロークを少なくする」技術で実現された。
 世界と戦う日本の平泳ぎ。今、「進行停止問題」への挑戦が大きな力になっている。世界最高水準と言えるかもしれない。選手は、身体的や運動能力的に個別性が高い。「進行停止問題」に対応するには、その個別性を重視しなくてはならない。どんな方法で対応するか、選手の特性をよく見て考える必要がある。旧来の体育会系運動部で行われていた、「全員これで行け!」というわけにはいかないのである。

● 対応策1 ―足引きを腰の幅内で行う-
 対応策の第一は直感的に思いつく「足引き時のかかとの移動を全て腰の幅の内側に入れる」という技術である。図1のように、Bゾーンで足引きを行うと進行のための水の流れをかかとやふくらはぎがまともに受けてしまう。上図は、選手の泳ぎを上から見たスケッチで、足引きの状況を示したものである。下画像は、1995年の日本選手権優勝の某選手の足を最大に引いた局面の後方から見た水中映像である。足引き最大時の両足先は離れており、両かかとは腰の幅よりかなり外に出ているのがわかる。当時の足ひきの通常技術(田口選手以外の)であった。

          図1.通常選手の足引き      図2.腰の幅内の足引き
       
 抵抗排除のため、図2の上図のように腰が水流をさえぎっているAゾーンで足引きを行うという考え方である。キックを打つための足を引くときに、両かかとを余り遠ざけないで腰の辺りまで持っていくように行う。図には両かかとの移動軌跡を点線で示した。こう動作するとかかとが通るのはすべて腰の幅より内側になるので、進行のための水流を受けることはない。水流に対する逆行動作が回避されるのである。したがって停止時間は極端に短くなる。図の下画像は、林選手の日本記録樹立の時の足ひき最大時の後ろからの水中映像である。両足が接近して両かかとが十分に腰の幅の内側に入っているのがわかる。林選手の進行停止時間は0.03秒で、図1の選手は0.13秒であった。勿論、この選手の時代には「進行停止問題」はわかっていなかった。かっての金メダリスト田口選手もこのタイプである。北島選手のライバルのアメリカのハンセン選手もそうである。
 田口選手や林選手のこの方法はもっとも効率がいいのであるが、問題なのは、一般の選手では股関節や膝の位置関係が好都合でなく、普通に足を引くと腰の幅の外にかかとが出てしまうことである。無理にかかとを入れて引く動作をすると膝の関節をねじる事になり致命的な故障の原因となってしまう。足関節の構造がこれに向いているのは、一種の奇形であるが、我々は先天的才能と呼んでいる。そのような理由で、現状ではこのタイプの選手の数は非常に少ない。 

● 対応策2 ―浅く引く-
 対応策の2番目は足引きの深さを浅くするという方法である。 この方法は現在世界中で最も一般的である。北島選手、前200m世界記録保持者のバローマン選手(アメリカ)、前100m世界記録保持者のスロードノフ選手(ロシア)、岩崎恭子選手、元日本記録保持者の田中雅美選手などなど、世界の多くの選手が行っている。

         図3.足引きを浅く         図4.お尻とかかとの距離

 足引きによる進行停止は、かかとが腰の幅から出てふくらはぎやかかとの逆行時に起こるので、足引き動作の途中から起こる。図3は、足ひきを浅くした状況のスケッチである。 
図の上は、従来の足の引き方で、キックを強く打つために足を「かかとがお尻にぶつかる」位に深く引きつけることが奨励されて、選手は素直に実施していた。お尻にぶつかる程に足を深く引くと時間が十分にかかってしまう。日本人平均的時間は0.3秒前後だ。図3の下のように、もし足引きを途中までにして、そこでキックを開始してしまえば、当然足引きの所要時間は短縮される。この短縮は進行停止時間の短縮に直接影響を及ぼすことになる。
図4.はトップ選手の足引き深さ計測法の測定データである。足ひき最大時のお尻先端とかかとの距離をビデオ映像により測った。藤枝選手は北島選手出現前の200mの日本記録保持者で「進行停止問題」が論議される以前の日本のトップ選手である。この当時は強く蹴るため深く足を引いていたので股関節とくるぶしとの距離は18cmであった。当時の常識であった。しかし、そのとき隣のコースで泳いだ世界記録保持者のバローマン選手はすでに足引きを浅くしていたのである。進行停止を知っていたようである。その他の選手は、足引きが深くても関係ない林亨選手と中国の原媛(ヤン)選手を除いて、ほとんどの現代選手が30cm以上である。ヤン(原媛)選手は対応策3での選手なので参考に記載してある。このように1部の選手(対応策1や3)を除いては、「浅く引く」テクニックが現代平泳ぎには必須の技術になっているのである。
 ただしこの対応策で問題なのは、足引きの途中で蹴り出してしまうため、そのままでは強いキックができないことである。十分に強い蹴りを行うためには矛盾した動作となる。この方法での「浅い足引き」のキックで強い蹴りを実現するには、足で十分に水を捕える技術と浅挽き状態でも強いキックが出きる蹴り出し筋力の増強が必要となる。記録を出すためには、強いキックが必須なのは当然である。
 そこで、引きつけ途中の浅い引きつけであっても強いキックを打つという特別な訓練を十分にしなくてはならない。20年近い昔、ナショナルチームのコーチの研究会で、当時圧倒的な速さの世界記録を持つアメリカのバローマン選手の筋トレメニューを分析したことがあった。その中に「うさぎとび」で階段を4階まで上がるという項目があった。当時は「こんな訓練をすればすぐ腰を痛めてしまう。このメニューはダメだ。」とあきらめてしまった。今考えてみると、当時バローマン選手は浅い引きつけ状態での強いキックを練習していたのであろう。膝をちょっと曲げた状態での「うさぎとび」ならば腰への負担はほとんどない。この時代、彼が飛び抜けた速さで十数年間も破られなかった世界記録を樹立していたのは納得ができると思った。と同時にバローマン選手の先見性の高さにも驚かされた。20年後の基本技術となったのである。すごいことだ。
 とにかく浅いキックで強く蹴ることを実現するのがこの対応策では最重要課題である。世界で最も実施されている進行停止時間短縮のテクニックである。

● 対応策3 -速く引く-
 対応策3は足引きを速くすることである。図5は、その概念図である。

        図5.速く引く           図6.股関節骨と足先の距離

 キックのために足を引くと、動作の所要時間がかかる。その動作の後半に進行停止が起こる。足引きを素早くするとその所要時間が減る。結果的に停止時間の短縮につながる。足引き動作を素早くして、足引き時時間を短くして停止時間を少なくするという技術である。
 この方法で泳いで世界のトップタイムを出したのはかっての中国のヤン(原媛)選手である。彼女は岩崎恭子選手のオリンピックの記録を破ってアジア大会で当時の世界最高記録を樹立した。残念ながら彼女はドーピング問題で出場停止になり、このテクニックでは世界記録樹立までには至らなかった。世界的にみても足引きにかかる時間は0.3秒位が平均である。図6の上図は、腰骨(股関節)とつま先の距離計測法の様子である。足引きの所要時間を計測するには、ビデオを1コマずつ送って股関節とつま先の水平方向の距離(寸法L)を測って計測する。下図はヤン選手について測定されたデータである。距離(寸法L)を縦軸に、経過時間を横軸にしたグラフである。このグラフの、足引き前の伸び姿勢の股関節から足先までの寸法から、それが減少始めるところを見いだして足引き開始時刻を決める。ビデオの画像をコマ送りしても厳密にいつ足引きが開始されるか特定するのが難しいためにグラフにした。1992年の広島アジア大会での女子200m平泳ぎ決勝の25m付近の映像から計測した。彼女の足引き時間は0.24秒と短いものだった。足引き時間の短縮は、直接進行停止時間の短縮に対応する。素早く引くことで平均的な足引き時間を0.06秒も短縮している。停止時間そのものは0.12秒であった。世界最高水準である。
 ヤン選手は停止時間の短縮をこのようにして実現していた。しかし、足引き時間を短くするのはキックだけでなく平泳ぎ全体のタイミングが変わってしまう。最初戸惑うかもしれないが、訓練すればできないわけではないようである。引きを速くすると反動でキックの蹴りだし速度が大きくなる傾向が出る。水の抵抗は物体の移動速度の2乗に比例するので、蹴りだし速度が大きくなればそれだけ足裏への水の抵抗が大きくなり、キックでの加速効率がより高くなる。好都合である。
 この対応策3は、著者の予想であるが、今後世界の平泳ぎタイムのさらなる向上の重大な技術となるであろう。

● 対応策4 -ストロークを伸ばす-
 述べてきた対策はいずれも1回の進行停止時間を短くする作戦である。しかし、世界には違う考えで戦っている選手もいることがわかった。正に発想の転換である。
アトランタオリンピックの100m、200m平泳ぎ種目で金メダリスを取った南アフリカのヘインズは両種目とも当時の世界記録であった。彼女の進行停止時間は0.16秒なので、200m種目などは、従来選手と同じように100ストローク程行うと、全停止時間は16秒にもなり、トップ水準の岩崎恭子選手などの総停止時間12秒に比べると4秒ものハンデキャップを持つことになり、世界記録はおろか金メダルも難しいことになる。ところが、ヘインズ選手は知的な抵抗排除技術で対応していた。ヘインズ選手は発想をかえて「総停止時間を減らす」と考え方で挑戦している。総停止時間は1ストロークにおける停止時間とレースで行ったストローク数を掛けたものとなる。

             図7.総停止時間を減らすには!

 図7のように、タイムアップのため総停止時間を減らすには、1ストロークあたりの停止時間を減らすことで実現できる。しかし、1ストロークの停止時間が多少長くても、ストロークを減らすことが出来れば、停止時間は減らせることになる。停止時間の長いことによるハンデキャップは解消できる。これが対応策4である。 
ヘインズ選手の実際のユニバシヤード200mレースでは、1ストロークが2m45cmほどで、総ストローク数は78であった。 岩崎恭子選手のバルセロナでの金メダルのときは1ストロークでの停止時間は0.12秒、約100ストロークだったので
   岩崎恭子選手の総停止時間  0.12秒×100回=12.00秒
   ヘインズ選手の総停止時間  0.16秒× 78回=12.48秒
となり、総停止時間は大差がなかったことになる。
 ストローク数を減らすのは1ストロークで進む距離を長くすることでできる。ではストロークを長くするのをどうやって実現するか。それは、ストロークを長くすることをキック後の伸び(グライド)時間を長くすることで行っている。図8は、ストロークを伸ばす方法の概念図である。

               図8.ストロークを長くする

 平泳ぎの1ストロークのサイクルは、足ひき(リカバリー)、キック、一瞬の一直線姿勢(伸び)、かき、そして足ひきへ戻るというものである。一直線姿勢は通称「伸び」と言われて、抵抗のない姿勢で惰性進行するという極めて重要な部分である。一瞬でも一直線姿勢取ることが重要であると言われている。この惰性進行部分を長くすると1ストロークでの進行距離を長くできる。長くなればストローク数を減らすことができる。これが平泳ぎでのストローク数削減の根幹テクニックなのである。水中で進むこときは大きな水の抵抗を受けている。惰性進行時に急に速度が落ちてしまっては逆効果になってしまう。この局面での姿勢の取り方はきわめて重要となる。抵抗の少ない惰性進行姿勢をストリームライン姿勢という。いわゆる流線型である。
 姿勢の取り方が上手であればかなりのあいだ進行速度を持続することがわかっている。うまく姿勢を取れないと、水からの抵抗のためすぐ進行速度が落ちてしまう。一度落ちてしまったらキックや「かき」で挽回するのは困難である。ストロークを減らしてタイムアップを計るなどとはとんでもない話になる。 
 ヘインズ選手の行った知的なこの技術は現代平泳ぎの主流になったが、最も上手にこなしているのは日本選手だと思われる。

4.北島選手の挑戦
 挑戦のエピソードは本データベースの{エピソードその2}に解説した。参照いただきたい。
4-1.「進行停止問題」対応策2の挑戦

               図9.北島選手の足引きの進歩

 1998年彼はその夏初めて出場した高校総体(インターハイ)の男子100m平泳ぎで、1分3秒00という記録であった。世界記録には3秒以上も差があった。調べてみるとその時は、図9の上図のように、足引きが21cmで進行停止時間の計測値は0.12秒であった。
 その後の2001年、北島選手は日本選手権の100m平泳ぎ種目で1分0秒61と画期的な日本記録を樹立した。当時の世界記録にあと0.6秒と迫ったタイムであった。その時の彼の足引き状況を図9の下段に示した。足引きの深さは31cmで進行停止時間は0.07秒になっていた。正に「進行停止問題」の対応策2の「足引きを浅く」を見事に実現していたのだった。

4-2.進行停止問題」対応策4の挑戦
 対応策4は、レースの全ストロークを減らすことで総停止時間は減らすという方法である。図8の右側の流れのように、惰性進行部分を長くすると1ストロークでの進行距離を長くできる。長くなればレース全体のストローク数を減らすことができる。これが平泳ぎでのストローク数削減の根幹テクニックなのである。水中で惰性進行時に速度が落ちてしまっては逆効果になってしまう。抵抗の少ないストリームライン姿勢を上手に取ればかなりのあいだ惰性でも進行速度をある程度持続できる。抵抗の少ないストリームライン姿勢というと専門的すぎるので、我々は一直線姿勢と呼ぶことにした。
 2000年の日本選手権、北島選手がゆっくりと見える大きなストロークで、1分1秒31という当時としては画期的な日本新記録でゴールしたのである。観客性のどよめきはしばらく収まらなかった。ストローク数は、なんと行き(前半)21ストローク、帰り(後半)23ストロークで、合計44へとなっていた。前年まで56ストロークもかかっていたのが44へと減った。驚愕であった。観客がゆっくり泳ぐという風に感じたのも当然であった。

               図10.一直線姿勢の進歩

 図10は、その1年間の北島選手の一直線技術の進歩である。彼とコーチがどうやって訓練したかは分からないが、2000年の時の映像は彼の姿勢が見事な一直線になっているのがわかる。1999年の100mレースでは、行き27ストローク、帰り29ストロークの合計が56であった。2000年には、前半21ストローク、後半23ストローク、合計44へとなった。総ストローク数差は12ストロークとなり、彼の停止時間は0.12秒なので総停止時間の短縮は0.12×12 = 1.44秒となった。1999年のタイムは1分2秒73、2000年が1分1秒31なので、この1年間のタイムアップは1秒42となる。実にタイムアップが一直線技術習熟で実現したのであった。
 私はこの時点で、「こいつら(彼とコーチの意味)タダ者ではないな!・・・まだ彼の現在の停止時間は0.12秒、世界のトップ水準は0.07秒前後。0.05秒の短縮の可能性がある。それが実現すると44ストローク×0.05は2.2秒。現在タイム1分1秒31から2.2秒を引くと59秒1になる。凄いタイムになる。59秒9の世界記録を0.8秒も上回る。なんということだ、なんということ、なんと・・・。」と一人で呟いていた 大きな期待で興奮しきっていたのを今でも覚えている。そして彼はその後見事に世界記録を樹立したのである。

5.平泳ぎの加速手段、「かき」と「キック」
 進行停止問題の対応策を先に解説したが、重要なのは平泳ぎの加速手段である「かき」と「キック」であることは言うまでもない。間欠加速による平泳ぎの「かき」と「キック」にはこの泳ぎだけの重要な技術がある。その2、その3で解説する。