3.競泳の科学 

 筆者は典型的な絶対尺度競技種目である競泳競技に関して、20年以上、科学の力で競技力の向上(速く泳ぐ)を図ることに従事してきた。世界との戦いを科学の力で実現してきたと思っている。最初に関わったのが1992年バルセロナオリンピックの女子200m平泳ぎ金メダルの岩崎恭子選手である。ここでは専任コーチの水野隆一郎氏の考えたコンセプト「水をくぐるような平泳ぎ」の金メダル技術を科学的に解明することができた。この技術は、その後林亨(アキラ)選手の様々なドライアルで洗練され、天才的な才能を持つ北島康介選手の登場で花開くことになった。アテネ・北京の2大会連続で100m・200m平泳ぎの2種目制覇という大きな成果を生んだのだ。さらにリオデジャネイロ大会での金森選手の女子200m平泳ぎ種目の金メダルにも貢献することができた。
 世界と戦う経験の中で、「スポーツに対する科学的なアプローチ(インテリジェンス)」がいかに重要であるかを痛いほど知らされてきた。このデータベースに蓄積された情報は実践の経験に基づいて立証されたものである。真剣に受け止めてほしい。
 競泳で勝つこととは、他選手より速く泳いで先にゴールタッチすることである。だから競泳に情熱をささげる人々はどうやったら速く泳げるか真剣にトレーニングする。しかし、ただやみくもに何も考えずに泳ぎ練習を繰り返すのは効率的でない。「泳ぎの進行の仕組みを科学的にとらえ、より効率的な動作や姿勢を考え、それを実現するための練習やトレーニングに励む」というのが、今や水泳だけでなくほとんどのスポーツの世界の流れなのである。まさにスポーツインテリジェンスなのである。                             筆者は、1年間カリフォルニア大学水泳チームの強化のお手伝いをして、最先端技術の状況を知ることができた。ここに取り上げたのは水泳に関する「科学の力」である。「泳ぎの技術を科学的にとらえる」ことはどんなことか、基本的な例を上げて解説をしてみたい。