情報コード  DYB2
情報登録日  2019/03/22
情報作成者  河井正治

.野球のインテリジェンス

3.バッティングの科学 その2                    

・・・・ジャストミートは寝かせ振りで!・・・・

7.打撃点の合わせを±0.5cm以内にする
 直径6.3cmのバットを振り回して直径7.3cmのボールに±0.5cm以内に合わせて当てるというのは大変である。試合中バッティングは何度も回ってくる。その度にこの精度のいる作業を成功させなくてはならない。

      図4.打撃開始時の振り始めのバット位置         図5.バット上下変位の差

 図4は、打撃の際の構え姿勢からバットがボールに当たる打撃瞬間までの一連動作の模式図である。上段はバットを立てて構えそのまま打撃のための振りを開始する一般的な動作の一連である。下段はバットを肩より低い位置に寝かせた状態での振り開始状況である。ちょっと変則な構えに見える。図5はこの2つの動作におけるバットの変位の違いを表したものである。バットの長さはルールで106.7cm以内と定められている。打つボールはベルトの高さあたりに飛んでくるので、上段の方法ではバットのミートポイントはどう考えても1m以上高さの変異をすることになる。つまりバットを立てて構えると、バットのミートポイントは高い位置から打撃の高さまで1m以上も下降する軌跡になる。角度でみると30°以上斜めにボールをあてることになる。この斜め衝突の後ミートポイントを±0.5cm以内に入れるのは本当に大変なワザとなる。
 一方、寝かせ構えの下段の動作では、肩よりちょっと下からベルトの高さまではせいぜい数十cm以内となる。寝かせ振り開始ではそれはちょっとの下降ですむことになる。
           

           図6.±0.5㎝が±0.4㎝になってしまう。

 ±0.5cmは幅で1cmである。図6のように、幅1㎝の間隙に斜め上の方からボールに当てる場合、まっずく当てるとジャストミートは±0.5cmであったのが±0.4cmになってしまう。さらに、斜め衝突の場合、バットの振り速度の方向も下向きなので、打撃の速度を決める水平方向の成分も小さくなってしまう。そのことを考慮に入れると、ジャストミートの幅は±0.35㎝となり、許容幅が7mmになってしまう。合わせがそれだけ難しくなる。試合中剛速球でくる白球を7mm幅で打つのである。とても難しい。難しいと成功率は下がる。打撃のジャストミートの確率が大きく下がってしまうのである。ボール打ちのバットは球に水平に当てるのが必須なのである。

8.実際の試合でのバッティング
 たまたま放送のあった、今年(2018年)9月、残りも10試合を切ったプロ野球公式戦、そこまで2位のH球団と3位のF球団の順位をかけた白熱の戦いでの選手の打撃を見てみよう。
     

              図7.H球団 M選手のバット振り
    
 図7は、H球団の主力打者牧原選手の打撃時のバット振りの様子である。左側の上図がピッチャーのリリース瞬間までの構えでバットを立てた状態である。写真では見づらいので、中央部の写真には、補助線としてバットに相当数部分に赤線、右腕部分に黒線をつけた。右側の図はそこだけ取り出して表示したものである。構えでは立てたバットを、中段のようにボールが近づいて打つためのバット振り開始時には、バットを一時的に寝かせ状態にし、一気に打撃まで振りまわしている状況が読みとれる。。殆どのプロ選手はバットを立てて構えていても、写真のように振り回す前に一度バットを寝かせてから振り動作を行う。これが±0.5㎝に当てる秘訣なのだと考える。

9、寝かせ振り開始は常識!
 多くのプロ野球選手は、図9のように最初はバットを立てて構えている。相手投手に威圧感をいだかせるためのポーズである。しかし、ボールが近づいて打撃のために振りを開始する時には、一瞬バットを寝かせた状態にしている。結果的に打撃のためのバット振りは、寝かせて振りを開始するという前述の図4と図5の下段の状態となっている。現実に±0.5cm以内に合わせるのに、構えの時とは別に寝かせ振り開始で行っているようである。きっとこれはプロの世界で常識なのであろう。


              図9.プロ野球選手のバット振りの様子

 打撃の成果をシビヤーに評価されるプロ野球では、ジャストミートは極めて重要技術である。むしろ打撃では常識的に求められている。打撃に習熟した選手は確実にジャストミートするために(±0.5cm以内に合わせる。図4と図5の下段の状態)やはり寝かせた状態からのバット振り出し開始を行っていることがわかった。これがプロの技術なのである。

10.ジャストミート円盤!
 図7のM選手のバット振り出し開始時とバットとボールとの衝突瞬間の映像を取り出して見ると図10の左上のようになる。見にくいのでバット部分は赤、腕の部分は黒補助線をほどこした。図の上段の中央部分はこの補助線だけを取り出したものである。注目すべきは、振り出し開始時のバット傾きは打撃瞬間のバットの傾きとほぼ平行なのである。方向は逆であるが。上段右図はバット移動の連続を示したもので、下段の左図はバット振り動作の連続をスティック図で表したものである。この図からバットの振りが1つの平面内で行われていることがよくわかる。バットの軌跡を結ぶと下段右図の青の円盤状態になる。バットを円盤状態の平面内で振っているのである。我々は、これを「ジャストミート円盤」と呼んだ。

                 図10.ジャストミート円盤という概念

 

         図11.±0.5cm以内に入れるのが容易な「ジャストミート円盤」
     
 円盤内でバットを振る技術に習熟すると、バットはいつも身体に対して同じ軌道を通るので、振りによるバットの上下がなく±0.5cm以内にボールの合わせるのが容易になる。結果的にジャストミートの確率が上る。

                 図12.ボールの位置への対応


 飛んでくるボールの位置に対する調節は、この円盤の傾きで対応する。円盤の傾きは身体の傾きや腕の振りで容易に対応できる。            
 
11.ジャストミート円盤による振りに習熟する!
 ±0.5cm以内のジャストミートの習熟練習はバッティングでは最も重要であり、基本でもある。いくら振りがシャープでも、いくら振りが力強くても、ジャストミートしなければ打球は飛ばないのである。ジャストミートの現実の訓練の場では、実際の飛んでくるボールを打つ練習より±0.5cm合わせ練習が最優先であることを知ってほしい。ともすればすぐピッチングマシーンでのバッティング練習に進みがちなのだが、まずに±0.5cm合わせる技術を拾得することが優先である。ミート練習でよく行われるのが、トスバッティングである。すぐそばに座ったサポート者がバッターにボールをトスしてやり、そのボールを繰り返し打つというやり方である。でもこれは、習熟訓練には最適ではないといえる。前の野球守備の解説で人間の運動能力には、脳に神経伝達の訓練ルートを開発することにより複雑で機敏な動作を円滑におこなうことができると述べた。脳に訓練ルートを開発するには、同じ条件の繰り返し練習が必要だとも解説した。詳しくはその項を参照して欲しい。トスバッティングでは、サポートするのは人である。人間のトスは、厳密に一定の位置や高さにボールを必ずトスすることはできない。いくらサポート者が習熟していてもボールの高さや位置はその度に必ず違っている。こういう状況では、その度に脳自身で位置確認と動作の対応を考えなくてはならず、訓練ルートの開発の大きな妨げとなる。脳の訓練ルートの開発にはできるだけ条件が一定なことが重要なのである。


             図13.打点の高さを±0.5cm以内    図14.ボール支え台

 球の位置や高さを一定にするには、図14のような台を作ってボールを置き、図13のように置いたボールを打てばいいのである。簡単である。こうすると図4の構えた位置からバットを振り下ろしてきて、±0.5cmの制度でボールを当てる訓練の条件は一定になる。ある決まった位置にあるボールに精度よく当てるという一連の動作の訓練ルートの開発になる。1つのルートが十分に開発されてから後に、ボールの位置を変えてじっくりと「訓練ルートの対応の幅」を増やしていくと考える。繰り返し練習による脳の訓練ルートの開発の基本的方法である。
 この練習でじっくりとジャストミート円盤によるバット振りに習熟することがバッティング技術向上の最も基礎的な重要事項なのである。

12.見違えるようになったジャストミート打球の数
 進学校の「出ると負け」評判のB高校野球部のバッティングの挑戦は、ジャストミートに徹する訓練から行われた。まず選手たちにジャストミートは±0.5cmの精度で球に当てること、脳の訓練ルートを開発するための繰り返し練習の必要性、訓練ルート開発の繰り返し練習時の厳密な条件設定の重要性、さらに実現の工夫としてのバット振り開始時のバット位置の指示、ジャストミート円盤の概念とその振り方、などを徹底的に教え込んだ。ジャストミートの判断は音ですることにした。打ったとき「カキーン」とした金蔵音(金属バット特有)がしたらジャストミートという判断基準にした。実際本当にそうであるかの検証はしていないが、多分そんなに誤差はないものと思う。ボール置き台にボールを置き、できるだけ実際の試合の時と同じ姿勢と動作で打つこと、一日最低30回繰り返し練習をすること、考えながら自分で工夫してやるようにしっかりと指示した。どうやったらジャストミートするか、ジャストミートの回数をどうやって増やすか、考えながら繰り返すことを促した。

       表4.±0.5cmを意識した練習によるジャストミート回数の向上  



 表4は、レギュラー候補12名のピッチングマシーンでの打撃練習の計測結果である。打撃は1人30球とし、球速は試合を想定し130㎞/時、直球でコースは真ん中とした。女子マネージャの耳で「カキーン」という音と判断した打撃の回数を記録してもらった。表の12人平均の項は360打席分のうちのジャストミートした回数である。その中で最もジャストミートが多かった選手を最高選手、最も少なかった選手を最低選手として個人データを記録した。計測はほぼ1ヶ月ごとに行った。
 表をみるとジャストミートバッティングの進歩の状況が顕著にあらわれている。12人の平均でジャストミート率が、当初14,1%しかなかったのが1月ごとに25.8%になり、最終的には40.3%にも向上した。当時「これは凄い」と内心でほほ笑んでいたのを記憶している。最高選手はいつもH君であった。彼は結局試合で4番バッターを任されることになった。
 この成果は後日、当時のA県の夏の甲子園予選での4回戦敗退までの4試合で発揮された。それまで常時1回戦敗退チームであったB高校は、この4試合のチーム打率3割2分、H選手の通算打率4割8分という凄いものであった。4回戦では甲子園常出場の強力チームと対戦、最後までリードして互角以上に戦ったのであった。しかし結果的には相手攻撃の9回裏に味方のエラーで点をとられて、最終回逆転さよなら負けという悔しい結果になってしまった。皆悔しい涙を流したのだった。しかし、今となっては私にとって、熱い懐かしい貴重な思い出として心に残っている。多分チームのメンバーも受験勉強そっちのけで手伝ってくれた女子マネージャ達も、顧問の先生(監督)も、英断した校長先生も、みな同じであった。
 この素晴らしい思い出を作ったのは、±0.5cmの「ジャストミート打法」とその真剣な訓練であったと思う。

13.やはりヌンチャク振り技術の登場
 バットとボールの激突で生まれる衝撃力が打球速を決める。打球速が早いほうがヒット率は高い。打球速は衝撃力とボールの反発係数をかけたもので算出される。衝撃力が大きいほど打球速は速くなる。当然である。衝撃力は、バットの振られた勢いの力と投げられて飛んできたボールの勢いの力での強力な激突で発生する。投げられて飛んできたボールの勢いは相手ピッチャーの技量で決まり打者にはどうしようもない。バットの振られた勢いは打者の技量である。打者が打球速を速くするには、バット振りの勢いを強くすることが重要になる。
バット振りの勢いを強くすることとは、振りを速くすることとつながる。どうやって速くバットを振るか、打者にとって極めて重要なテクニックである。「バッティング3」でこれについて解説したい。再び「ヌンチャク振り回し」技術が登場することになる