情報コード  DYB1
情報登録日  2019/03/22
情報作成者  河井正治

.野球のインテリジェンス

3.バッティングの科学 その1

・・・・ジャストミートは±0.5cm・・・・  

1.ヒットを打つことを考える。
 野球の攻撃的手段の代表はバッティングである。バッティングの目的は打って出塁することである。もちろん2塁打や3塁打、ホームランなど長打は得点の可能性が高く大変好ましい。打って出塁することを「ヒットを打つ」といい、安打と翻訳されている。2塁打・3塁打・ホームランなどは、飛距離の長いバッティングということでさらに様々なテクニックが考えられるが、とりあえずヒットを打つということを最初に考えてみよう。ヒットを打つ目的は、1.ヒットを打って出塁する、2.ヒットを打ってランナーを進塁させる、という2点がある。ヒットを打つにはアウトにならないため、打球を内野手に捕獲されないことが重要となる。捕獲されないには、1.内野手の間を抜ける、2.内野手の頭を越える(外野手までは届かないほどよい飛距離)の2つが考えられる。まず内野手の間を抜ける打球について考えてみよう。

2.内野手の間を抜ける打球
 1.守備可能範囲の考察
 思い出して内野手の守備を考えてみる。図1は、三遊間の一般的配置の模式図である。ベース間幅は27.43mと決められているので、一般的には内野手の担当する範囲は半分の13.7m位となる。

                 図1.三遊間の守備配置        
  
 図1のように、普通内野手は守備必要範囲13.7mの中央で構え、左右に守備移動して対応する。しかし、前に解説したように、如何に訓練ルートを研ぎ澄まして習熟しても、人間の運動能力的な制限のため守備可能な範囲が生じてしまい、その範囲を越えるような打球には対応できず抜かれてしまう。バッティングではここを狙うのである。
 内野守備の項で「構え待ち」状態での「急発的動作開始」では捕球姿勢確保までは0.5秒かかると解説した。バッターの打った打球はこの間内野手に迫って来る。内野手が捕球姿勢確保した後に球が到達するならば捕球されてしまう。しかし打球速が速く、この0.5秒間の内野手の捕球体制確保までの前に球が通過してしまえばクリーンヒットになる。つまり、打球速が速いと内野手の守備を抜けてしまう確率が高いのである。守備の位置はバッターからだいたい30mくらいの位置で構えていることが一般的である。
 一般に高校野球での平均打球速度は90㎞/時、プロ野球で100㎞/時位と言われている。会心の当たりをした場合や昔のイチロー選手など打球の速い選手は120㎞/時にもなるという。


  表1.打球速と守備範囲との関係


 表1は、90㎞/時、100㎞/時、120㎞/時の場合を計算したものである。詳しくは内野守備その1を参照いただきたい。守備可能範囲から外れる打球は捕球できないのでヒットになってしまう。内野手の必要守備範囲から考えた守備のカバー率の項の右側に内野ゴロ打球のヒット確率を示した。打球速が90㎞/時の時は、内野手間を抜けるヒットの確率は7%である。ヒットを打つにはこの7%狙うことになりなかなか難しいことになる。打球速が速いとヒットの確率が上がる。このことはバッティングの打率向上の重大なヒントになる。120㎞/時の打球では、内野守備選手の間を抜けてしまう確率が42%にもなる。一般に打率の高い大選手は打球速が速い。高打率は打球速が速いことが重要な要因の1つであるといえる。打率が3割を大きく越えるトップバッターも夢ではないと思う。

3.ジャストミートの科学
 バッティングでは、ボールをバットの芯にきっちり当てて打つということが重要と言われている。ジャストミートと呼ばれる。ジャストミートとはどういう状況で生まれるか考えてみる。ルール上では、バットの直径は6.7cm、ボールの径は7.3cmと定められている。

                 図2.ボールを打つ

 図2は、バットがボールに当たる状況の模式図である。図の左上は、右から飛んできたボールがバッターの振ったバットに当たる直前の様子である。左下図で両者が激突する。激突直後が右上図で、バットの振られた勢いの力と投げられて飛んできたボールの勢いの力が激突して強力な衝撃力が発生する。その後右下図のように、ボールは衝撃力によって得られた反発速度で飛翔することになる。飛翔速度(反発速度)は、衝撃力に反発係数をかけ合わせて計算される。反発係数はボールの組成や構造で異なるボール固有のもので、当然反発係数の大きなボールはよく飛ぶ。プロ野球や高校野球など連盟で主催される公式戦では、使う球の反発係数は規定で定められており公認球として厳重に管理されている。公式戦はどこで行つても公認球を使用するので打撃によるボールの反発条件は一定となっている。

4.ズレ打撃の場合
 図2の状態でボールとバットが衝突するのは正にジャストミートである。
 図3の左上図のように、バットとボールがズレ衝突する状況を考えてみる。


                 図3.ボールとバットがズレ衝突する場合

 打撃が行われると、右上図のように、バットの振られた勢いの力と投げられて飛んできたボールの勢いの力の激突でジャストミートと同じ大きさの衝撃力が発生するものと思われる。その方向はバット・ボールの移動方向に平行(水平)である。しかし左下の図のように、ズレ衝突の場合衝撃を受ける方向は2つの断面円の中心を結んだ方向(水平に対しθ°傾いた方向)になる。結果的に、左下の図ように、ボールはちょうどθ°だけ傾いた平面に当たった場合のようになり、2×θ°傾きがずれて飛んでいく。ちょっとのズレが方向的には倍に拡大されて飛んでいくのである。この図の下段中央に示したように、飛んでいく方向の衝撃力は本来の衝撃力のCos(2θ)分の成分になる。そしてその方向に飛んでいく時の同様に飛翔速度は反発係数をかけたものになる。現実の試合はグランドの地面上で行われるので、打球の速度は水平方向で評価される。水平方向の打球速が重要なのである。結果的に左下図のように、地上で評価される打球の水平速度は飛んでいく方向速度のさらにCos(2θ)分の成分になる。
 表2は、相手ピッチャーの投球によって飛んできたボールの方向と、バット振りの方向がズレ量によって水平方向の打球速度がどのくらい違うかを計算したものである。
 ズレなしのジャストミートの場合の速度を基準として1.0とし、減速なしの100%にした。表によると、ズレが0.5cmの場合の水平方向打球速度はジャストミートの0.9805になり、98%くらいになる。ズレが1cmになると打球速度は92.4%で、1割弱ほども遅くなることがわかる。ズレが1.5cmならば83.5%、2cmでは73.1%になってしまう。快心の当たりでなくボテボテの内野ゴロと言われてしまう状況になる。

          表2.ズレ打撃による打球速度の減衰状況の計算値

       
 表3は、プロ野球レベルの選手の速い打球と言われる打球速120㎞/時の場合のヒット確率を計算したものである。打球速が早いので、守備している相手内野手の守備可能範囲が狭まり、ジャストミートの場合はヒット確率が42%にもなっている。詳しくは「内野守備その1」を参照されたい。

  表3.ジャストミート打球速120㎞/時でのズレ量による水平方向打球速の変位

 
 表3によるとバットとボールの水平方向のズレ量が増えていくにつれて打球速が下がって(遅くなって)いる。これに従って内野手への打球到達までの余裕時間が増え、打球に追いつく状況が増え、守備可能範囲が増えて守備カバー率が向上している。球が間を抜けるヒット確率はその反対にどんどん下がっている。ズレ量が0.5cmの場合ヒット確率は40%となりジャストミートとは大差がないようである。しかし、1.0cmではヒット確率が31%と1割以上も下がっている。1.5cmでは21%、2.0cmでは3%とお話にならない。

5.±0.5cm以内のズレでボールを打つこと
 この表3の結果は、ジャストミートで打つことに関して重要な意味を持っている。ヒット率の項を見てみると、ズレ0.5cmでのヒット確率は40%で、ズレ0.0cmと大差がないがズレ1.0cmでは、31%と1割以上も悪くなっている。打球速もズレ0.5cmは118㎞/時でさほど下がっていない。つまり、ズレ0.5cmでは、ジャストミート範囲内ということであると考えられる。ズレ1.0cmではとてもジャストミートとは言えない。
 ジャストミートで打つと打球速が速くヒット確率が上がる。「快心の打撃」である。ズレ0.5cmは上下両方向あるので、「±0.5cm以内のズレでボールを打つこと」がバッティングの重要テクニックであることがわかる。「快心の打撃」には、飛んでくる球に振るバットの高さを±0.5cm以内に合わせるという高度な技術が必要なのである。これを実施している強打者といわれる選手はやっぱり凄いのである。

6.バッティング技術向上
 ここまでの解説で、ジャストミート、速い打球速、がヒット率向上の重要な基本技術であるとわかったと思う。±0.5cmに合わせるという大変な技術。これを実現するためにこの時もう1つ工夫がある。ジャストミート円盤という概念である。「バッティング2」でに詳しく解説したい