情報コード  DYF2
情報登録日  2019/03/21
情報作成者  河井正治

.野球のインテリジェンス

2.内野守備の科学 その2

・・・・鉄壁内野守備は「動的反射能力」活用で・・・・                

4.「内野守備1」に続く
 表1のカバー率の項をみると、相手選手の打球速が120km/時になると、必要守備範囲の4割以上がヒットになってしまう。守備側はピッチャーを主体に色々な努力でなんとかジャストミートしないようにと頑張っているのであるが、なかなか大変である。その1では内野手の捕球体制完備時間(0.5秒)が重要なポイントであると解説した。今回はその決定的対策として、人間の持つ「動的反射能力」という優れた能力について解説しよう。

   表1.打球速と守備範囲との関係


5.内野手の捕球動作確保時間を詳しく調べる!
 内野手の捕球動作確保時間は、相手打者の打撃の瞬間から0.5秒と解説した。それを詳細に調べてみる。

               図9.内野手の捕球動作確保時間の詳細

 内野手が守備動作に習熟し脳に訓練ルートが確立されていると、図9のように、相手の打つ瞬間を目視すると、人間運営クロックの0.1秒後に脳が打撃を確認した直後、球追い動作開始指示と捕球姿勢確保指示が同時に身体の必要各部署に出される。それが人間運営クロックの0.1秒後に伝わり球追い動作と捕球姿勢確保が同時的に開始される。開始後球追い動作はトップ速度8m/秒(0.1秒間に80cm)まで加速するのに0.3秒かかる。捕球姿勢確保は、手足などを動かして体制作りをする。動作開始後0.2秒ほどで行われる。姿勢が確定しと速度が確保できるまでが相手打撃目視から0.5秒後になる。その後に捕球位置へと移動が行われる。
 図を見て分かることは内野手の捕球動作は移動速度確保時間が打撃の瞬間から0.5秒かかることである。この時間は身体の静止構え姿勢からの移動速度8m/秒の速さまでの加速時間で、捕球のための急発的動作開始のがネックになっている

6.「動的反射能力」
 人間の「急発的動作開始」時の反応状態は、そのときの身体状況が静止しているか・動作中であるかで大きく異なる。このことを体感するための実験を「スポーツ共通 その2(急発的動作開始2)」で解説した。ぜひ体験してみて欲しい。
 図10は、急発的移動開始時に身体の移動速度の上昇(加速)状況を示した模式図である。「急発的動作開始」状況では、静止から急スタートすると、重い身体が最初は徐々に動き始めて、ある程度の体制になると一気に要求移動速度へと加速される。図の赤点線の部分はスタートから緩慢に少しずつ動くので「隠れ反動時間」と呼ぶ。急発的動作開始ではこの「隠れ反動時間」が必ず生じてしまう。それには0.2秒ほどかかるようである。大きな身体を急に最高移動速度に上げるには、慣性モーメントの関係で大きなエネルギーを要する。特に静止状態から移動状態に移る移動開始時に大きなエネルギーを要するために起きる自然的現象である。例えば電車のスタートでも進行開始時の瞬間に大きなパワーが必要なのは常識である。身体活動でも移動開始時は同様である。動き始めれば所要速度までは0.1秒で達する。そこで静止状態から適正な移動速度を得る状態まで合計で0.3秒も時間を要することになる。

          


                図10.急発的移動開始時の速度変位

 図11は、走行の場合の静止スタートと方向転換との違いを説明したものである。上段の図の静止からのスタート時は、先ず脳からの指示から生体クロックのために0.1秒後に身体が動き始める。走行状態を開始しようとするが、静止状態から隠れ反動時間と加速時間とで走行状態に移行するのに0.3秒を要することになる。脳から走行開始の指示を受けた後に合計で0.4秒かかることになる。図にはないのだが、その前に号砲スタート時の脳がピストル音の認識からスタート指示を出すまで0.1秒を要するので、スタート合図から通常走行状態になるまで合計で0.5秒かかることになる。
 図の下段の方向転換の場合は、すでに走行状態になっているので、脳からの指示による方向転換実行は人間の生体運用クロックの0.1秒後に行われることになる。号砲からの所要時間は、静止構え状態から0.3秒も速く実行できるのである。

               図11.走行スタートと方向転換方向転換

 サバンナでの動物活動状況を伝えるテレビ放送などで、ライオンやチータ等の肉食獣の狩りで獲物のガゼルなどを全力で追っている映像を思い出して欲しい。必死に走って逃げるガゼルが一瞬右に左に方向転換して追跡をかわしている状況を覚えているだろうか。これが瞬時の方向転換である。同じ動作の継続という状況なので、左右に向きを変えているだけとなり0.1秒で方向転換ができるのである。地球上で長いあいだ弱肉強食の野生で暮らしてきた動物に生きるために神が与えてくれた能力なのである。もちろん人間にも備えられている。我々はこれを「動的反射能力」と呼ぶことにした。ただし180°反対方向の場合のように大きな方向転換では、一度速度がゼロ近くなるので図12の上段に近い同じ状態となる。そういった意味では方向転換の大きさによって短くなる時間が異なることになるが、90°程度の方向転換では所要時間がさほど大きくならないようである。

7.「動的反射能力」の内野守備への活用!
 静止状態からの「急発的動作開始」では、大きな身体を急に最高移動速度に上げるには、慣性モーメントの関係で大きなエネルギーを要する。そのため約0.3秒の時間を要する。図12の上段がそれである。通常では内野手は相手が打つ瞬間まで静止状態で構えて待つ。この場合、相手の打撃瞬間の目視から捕球体制完備まで0.5秒要する。静止状態での構え姿勢の移動速度ゼロから球追い動作の8m/秒の速さまでの加速の間に捕球姿勢確保が同時進行的に行われる。捕球姿勢確保の所要時間は0.2秒である。

              図12.「動的反射能力」を活用した守備

 「動的反射能」活用での方向転換は0.1秒程度ですむ。図12の下段のように、相手打撃瞬間にすでに球追い動作速度になっていれば、その後の動作は方向転換だけですむことになる。つまり、相手打者の打撃前に前の方に移動を開始して、球追い動作速度になったころ目視で打撃方向を確認、方向転換と捕球姿勢確保動作が脳から指示される。動作開始は並行して行われる。捕球位置への移動は、すでに移動速度は確保されているので、方向転換だけですみ0.1秒しかかからないことになる。打撃目視からは0.2秒しかない。球位置への移動開始が0.3秒も早くなるのである。余裕時間が0.3秒も多くなる。結果、論理上守備範囲が片側で0.3秒×0.8mで2.4m、左右両側で4.8mも増えることになる。ただ、平行動作で捕球姿勢確保までには0.2秒かかるので、この間に球が来てしまうと、球には追いついているのだが完璧な捕球作業はおこなえない。これは静止構えの場合でも同じである。それにしても、球追いつき範囲が4.8mも増えるのである。相手打球に追いつきさえすれば、グラブや身体に球を当てるなどで後ろにそらすことはないであろう。クリーンヒットは免れることになる。球が来るまでに0.2秒以上の余裕があれば、捕球姿勢確保が間に合うので容易に捕球できる。「動的反射能」活用では大きく守備範囲を増やすことができるのである。
 さらに効率アップの工夫として、打撃前の前進分として、あらかじめ守備位置を1~2m後ろにしておくことも必要だと思われる。
 
8.球に追いつく動作!
 表2は、静止構え方の守備と「動的反射能力」活用型の守備との比較である。前にも述べたがこのデータは、習熟した高校野球の内野手レギュラーのデータの守備移動速度秒速8mでの計算結果である。未熟な選手ではこの速度での移動はとてもできず、守備カバー範囲はもっと狭くなり、ヒット確率はもっと高いものとなる。

 表2.「動的反射能力」活用の守備範囲


 とりあえずプロ野球での「快心の当たり」という120㎞/時の打球速をトップ選手が守備している状況での検討してみよう。
 相手打球速がプロ野球の強打者並みの120㎞/時の場合、相手打撃のインパクト瞬間から守備位置の30m付近まで球は0.9秒で到達する。通常行われている静止状態で構える守備方式では移動速度確保までの所要時間は0.5秒である。この時は捕球姿勢が確保されているので、球が内野手に来るまでに余裕を持ってその位置まで移動できる。つまり、守備余裕時間は0.9-0.5=0.4秒となる。選手は球追い動作では全力で走るので、8m/秒位の速度になる。余裕時間に移動できる距離は8m/秒×0.4秒=3.2mとなる。左右で6.4mとなる。これに自身の守備範囲1.5mを加えた7.9mが、球の到達に間に合う移動可能な距離となる。この時はもう捕球体制が完備されているので捕球できる。つまり守備可能範囲となる。これを超えた位置に来る打球は外野に抜けることになる。内野手の守備必要範囲をベース間距離の半分の13.7mとすると、守備範囲のカバー率は58%となって。相手バッターのヒット確率は42%にもなってしまう。
 「動的反射脳」を活用して守備を行った場合の計算値はその下の段のブルーの枠に示す。打球速120㎞/時なので、守備位置に球が来るのは同様に0.9秒で到達する。「動的反射能」活用の場合は捕球体制完備時間が0.2秒なので、守備余裕時間は0.7秒になる。この間に選手が球追いで移動できる距離は5.6mとなる。左右で11.2mである。これに選手自身の守備範囲1.5mを加えると守備可能距離は12,7mとなる。カバー率が93%と向上する。プロの強打者相手でも、内野ゴロのヒット率を7%程度に抑えられることになる。打球速が100㎞/時以下の凡打者では、「動的反射脳」活用ではカバー率が100%となり、打者にとって内野ゴロでヒットにするにはなかなか難しい状況と作れるということである。

 「動的反射脳」活用とは、静止構えスタイルで相手打者の打撃を待つのではなく、事前に打者の打撃瞬間を予測して守備の第一歩を開始し、前へ移動しながら打撃を目視して打球方向を認識、移動の方向転換で対応するという方法である。実現できるとプロ野球強打者のヒット確率を半分以下にできる守備の名選手となる。

8.出ると負けチームの内野守備が大きく進歩した!
 A県で最高の進学校のB高校野球部は、当時部員数19名、学業優先の学校の隠れルールで4月には3年生は部活をやめなくてはならない状況であった。3年生は4人。どうしても夏の甲子園を目指したい3年生部員は、顧問の先生・校長先生と直交渉して夏休みの猛勉を約束しての限定期間活動を許された。7月の甲子園県予選まで、4・5・6月の3ヶ月。それも練習は夜7時まで。進学勉強に励む同級生を横目にして彼らは真剣に練習に打ち込んだのであった。女子マネージャーは5人いた。うち2人が3年生、顧問の先生と合わせて25人の3ヶ月間は私の人生に残る感動的で情熱的な時間であった。D君は内野守備の要でショートを守っていた。運動神経も機敏さもなかなかであった。頭のいい彼は、「急発的動作開始」での「動的反射能力」活用については、「目からウロコが落ちた」と感心して本質をよく理解してくれた。それからはきわめて熱心に練習に取り組んだ。彼の脳に「動的反射能力」活用捕球動作の訓練ルートを開発するため、図14のように左側捕球ノック練習を1日30本、10日間連続して行った。何度も述べたが、くり返し練習は鍛錬のためでなく習熟による脳の訓練ルート形成のためである。よくノック練習で実戦ではどちらに来るかわからないので左右に分散して打撃しているケースを見かけるがこれは大きな間違いである。右側捕球と左側捕球では動作が違う。脳に訓練ルートを養うには同じことの繰り返し練習が必需である。右なら右動作、左なら左動作を習熟するまで繰り返すのが当たり前なのである。この時の経験で、効果が上がってくるには1日30回、1週間から10日位が目安であると思う。

         図13.ノック練習        表3.練習成果

 図13のノック練習は左側捕球動作訓練である。ノック打球速は60㎞/時と考えて、球が打撃瞬間から0.9秒で到達するであろう15mほどの位置で捕球動作をするようにした。表2の打球速120㎞/時の想定である。選手の位置を2塁ベースから4mの距離にして、ノックは2塁ベースに向かって打つことにした。4mというには、静止構え状態では0.9秒間の論理上移動可能範囲が3.2m、バックハンド体制の自身守備範囲0.7mを加えて約3.9mを想定して決めた。打った球にほぼちょうど球が到達する距離である。「動的反射能力」活用では移動可能距離が5.6mになることが予想されるので捕球が容易になる。表3の上の表は、第一日目の従来の静止構え型でのデータで、×印は、球に追いつけずにグラブに触らない状況、△印はグラブには触ったが取れない状況、○印は補給して1塁へ送球した場合である。30本ノックの最初の10本は半分が球に届かず、やっと触れたのが3回で、なんとか捕球したのは2回だけであった。20本・30本と続けているうちに球に追いつく回数が増えた。最後は慣れてきたのだと思うが4回も捕球できた。ノックの球の方向や打球速も一定ではないので正確なデータではないが傾向はわかると思う。半分位がやっと球に追いつく程度であった。その後「動的反射能力」活用練習にはいった。ノックを打つバッターの振りをみて、インパクトの0.2~5秒前に前方に全力で踏み出すという方法にして、繰り返しの訓練おこなった。当初は、上手くタイミングが取れず、遅すぎて全く効果なしや、早く動き出し過ぎてかえって捕球に手間取るという状況であったが、3日目あたりから上手に球が取れるようになってきた。表3の10日目のデータをみると、もはや球に追いつくのは当たり前でほぼ捕球ができている状況になった。ノック打者の慣れですこしずつ遠目に打つようになっていたのだが、結構ちゃんと捕球していた。彼の脳に「動的反射能力」活用動作の訓練ルートが定着したものと思われた。もちろんそのあとは右側捕球の訓練を1週間行った。この時は極めてスムーズに習熟した。技術の習得には個人差が大きいがこのデータの示す意味はわかると思う。この訓練のおかげで彼は守備に大きな自信を持つことができたようである。事実7月の甲子園予選では彼と同様の訓練をした三塁手のE君とで鉄壁の三遊間といわれる程になった。7月の予選会の本番では4試合戦って三遊間の内野ゴロエラーはゼロであった。当然、1塁手も2塁手も同様な訓練を行った。


9.「急発的動作開始」での「動的反射能力」活用は重要技術である。
 「急発的動作開始」技術の重要性をまず言われるのが、短距離で速さ(タイム)を競う陸上競技のトラック短距離種目、競泳、スピードスケートなどのスタート局面である。しかし、スタートでは「必ず静止」という競技規則のため「動的反射能力」は使えない。そこで、静止後の急発進における選手の本能的な反動動作の回避技術が重要となることは前に水泳スタートの項で解説した。
 しかし、球技での相手打球の受け技術では静止構えの制限はない。そこで「急発的動作開始」での「動的反射能力」活用が極めて重要となる。サーブ・スマッシュ(スパイク)・ヒッティングなどに対応するレシーブ(守備)での球受け技術である。
 しかし、今のスポーツ界はどうもあまり知られていないような気がする。
 図15は、2018年4月に行われたプロ野球セ・リーグ公式戦のG球団とC球団の試合の1コマである。G球団の選手が3塁ベース上を通過する打球で見事ヒットを打った局面である。上段左の①がインパクトの瞬間である。白球は背景の広告文字「レ」の尻尾位置に見える。C球団の3塁手は静止構え方である。守備位置は大体3塁ベースから約5m位のところ。②は3塁手が動き始めた時点で、インパクトから0.23秒くらいの時である。白球はスタンド前列に立って観戦している白い服を着た女性(?)の左隣の位置で観客に見えるように写っている

                図15.プロ野球公式戦 放送映像

。下段の③は、インパクト0.5秒後の3塁手の球追い状況である。④は、白球が3塁ベース上を通過する瞬間あたりの映像である。インパクトから1.0秒経過しているので打球速は110㎞/時位であった。静止構えなので彼の右側守備可能範囲は4mである。結果5m離れている3塁ベース上通過の球には追いつけなくヒットになってしまった。もし「動的反射能力」活用型守備なら彼の右側守備可能範囲は5.6mになるので、十分間に合って捕球しているであろうと思える。ヒットを阻止できたのだ。
 このように、今の野球界では守備の「動的反射能力」活用はどうもあまり考えられていないようである。
 一般的に打球の受け動作は時間との戦いになる。野球内野守備では1秒ほどで相手バッターの打球が来る。テニスのサーブ守備では、0.4~5秒で相手打球が来る。それに対応して次の対応(受け)動作をしなくてはならない。厳しい局面である。
 人間の「動的反射能力」の活用は、厳しいこの局面に0.2秒の余裕時間を確保できる。貴重な0.2秒である。球速に換算すると、野球打撃では白球の進行の6m、テニスサーブでは10mに相当する。打撃直後のこの距離は受け手選手に大きな余裕をもたらす。「急発的動作開始」での「動的反射能力」活用は重大な技術である。
 しかしそれには、あらかじめ相手選手のインパクトの瞬間を見越しての事前の動作開始という難しい局面が必要となる。相手選手の打撃の直前に行動を開始しなくてはならない。早すぎても遅すぎても効果がない。むずかしい技術であるかも知れない。
 これを克服するのが繰り返し練習による脳の訓練ルートの形成である。高校生レベルではある程度実現できたと思う。脳の訓練ルートの開発はスポーツ界では重要な訓練手法である。繰り返しということだけが重要視されて間違った訓練が行われている場合がよくある。
 脳の訓練ルート開発に関して、またしっかり解説しよう。